ポテトチップスが粉々に砕けたわけ
見事な造形を保った大判、さっさと口に運ぶのは惜しい。
しばし、スマホで写真を撮るような構えで目の前にかざす。
ここまでよくぞ、割れずにやってきたよね。
袋詰めの後、箱詰めされて、トラックに乗った。
多くの仲間たちと一緒に、高速道路を疾走。
いや、鉄道貨物、あるいは船便かも知れない。
近辺の仲卸業者の倉庫に入ったかと思うと、小売店へ移送。
店に着くと店員が箱から取り出し、賞味期限が近い在庫品を一旦傍らに置いて、棚の奥にぎゅーぎゅーと押し込む。
いったいどれだけの人の手を経てきたか。
それなのに君、大判は生まれたままのカタチを維持している。
その奇跡に、人は自らがなし得なかった夢を重ねる。
ところが、今目の前にあるポテトチップス。
大判は始めから数枚しか入っていなかった。
大抵の大判は割れてしまっていて、くずくずになっている。
いきなり、最後のくずくずを口に流し込む気分だ。
冬の寒さを耐えて育ち、長い旅を経て、消費地であるわが家にやってきた。
いよいよ、美味しく喜んで食べてもらえる。
それがじゃがいもの命にとっての幸せな区切りだったはずだ。
ラスト1マイルで大判の夢を砕いたのは5時間前の出来事だった。
コンビニで新商品のポテトチップスを買い求めバスに乗った。
バスには部活の女子高校生が乗り込んで来て、空席が消えた。
僕はバスの最後部「誕生日席」に居た。
通路のどん突き(突き当たりのどん詰まり)
目の前には1人の女子高生が立っている。
仮に彼女を「マルちゃん」と呼ぼう。
丸顔だから。
ノンステップバスの後方、高くなった部分は大半が部活女子で占められており、さながら部活反省会の様相を呈している。
マルちゃんはさっきから、部員とのおしゃべりに興じている。
ぎゅうぎゅう詰めの車内では、本を開くこともはばかられる。
彼女らが途中のバス停から乗ってきた後、本を閉じて瞑想に入った。
2つめのバス停を出た時だった。
ばりばりっ
体に伝わる緩やかな衝撃に、閉じていた目を思わず大きく見開く。
すると、視界にとらえたのは、恥ずかしそうに立ち上がるマルちゃん。
周囲には冷ややかな空気。
マルちゃんは顔に「やっちまったべ」と書いて、へらへら笑っている。
以前にも1度、お誕生日席に座っていてOLが僕の膝に座ったことがあった。
「すみません」
すぐに立ち上がったOLは、とても気まずそうで、その気持ちを推し量り軽く会釈に留めた。
「いやいや、いいとよ。なんなら、ここに座るね」
と言ったら可笑しいだろうなと考えたが、常識ある社会人が言うことではない。
ここは、温泉宿の宴会場ではないのだから。
マルちゃんも気まずそうだ。
でも、謝りはしない。
僕はにらむことはしない。
別に怒っていないから。
ただ、謝らないことは驚きで、さらに丸い目を維持していた。
するとマルちゃん「すんません」と小声で言った。
相撲部かっ
と心でつぶやいた。
会釈にも値しない。
マルちゃんによって砕かれた大判を食べながら思ったことは、腹に入ってしまえばみんな同じだと言うことだ。
マルちゃんがいつか、礼儀正しい女性に成長することを祈る。
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