部長になったサトウさんのはれぶたい
サトウさんはその時、想像力の翼を広げて考えた。
自分にもやがて、子供が生まれ
その子供が結婚式を迎える。
来賓スピーチの誰かが、新郎(新婦)の父親の人となりに言及するだろう。
新郎側であれば、親族代表の挨拶という大役もある。
その時は、肩書きの一つや二つ、無いよりはあった方がいいな・・・
それから数十年の時が経ち、その日が来た。
長男の結婚式だ。
その日だけスズキ部長から、部長を替わってもらったサトウさん。
営業部長として臨む華燭の宴
「父さんって、いつから部長だったの?」
準備段階で、役職を尋ねた時、息子は驚いていた。
表情ひとつ変えず、
まぁ取り立てて言うことじゃないから言わなかったのさ。
「その日だけ」とは言えず、さらりとかわす。
宴もたけなわ、そろそろお開きの時間が近づいた。
結婚式のラストと言えばこれ。
新婦が号泣のもと、父母に手紙を読む。
親が子の巣立ちを慈しみ、子は親に感謝の精算を果たす。
時代の流れは速まっても、この図式だけは変わらない。
「お母さん、これまでいつもあまのじゃくでごめん。
生んでくれてありがとう。
お母さんの娘に生まれてよかった」
会場の誰もが、じんましんを我慢しながら、聞き入っている。
なかには、真に受けてもらい泣きするご婦人もいて、
サトウさんは、目を丸くして驚く。
さぁ、いよいよオオトリだ
と思った途端
え゛おおとりけいすけ
と心で言って、吹き出しそうになるのを、指をつねってこらえる。
「それでは最後に、親族を代表して、新郎の父**よりご挨拶を申し上げます」
新婦に当てられていたピンスポットが、次のターゲットを探している。
かつて、カラオケボックスがなかった頃、カラオケバーのステージでスポットを浴びたことはある。
あの日、以来だ。
悪くない・・・
サトウさんは自分に当たったスポットに目がくらまないよう、虹彩を調節する。
照明が落ちたホテルの宴会場
ピンスポットが止まった。
すっくと立ったサトウさん。
口を真一文字にむすび、前方を見据えた。
そこで、どよめきが起きた。
誰もが迷っている。
でも、こらえきれずに、新郎の友人が吹き出した。
ここは笑うところなのか?
場内には爆笑と失笑、そして嘲笑が交錯する。
今度は、さっきまで泣いていたご婦人が、目を丸くしている。
親戚の円卓からは、愕然としたざわめき。
業者のビデオカメラがズームで寄る。
カメラ係を委嘱された長男の親友は機転を利かして、周囲の表情をひとなめする。
ここは、観衆の反応も美味しい。
ピン・スポットに照らし出された
サトウさんの左肩には
「一日営業部長 佐藤」のたすきがかかっていた。
*このお話はフィクションですよ。
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