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2015年2月 8日 (日)

部長になったサトウさんのはれぶたい

サトウさんはその時、想像力の翼を広げて考えた。
自分にもやがて、子供が生まれ
その子供が結婚式を迎える。

来賓スピーチの誰かが、新郎(新婦)の父親の人となりに言及するだろう。
新郎側であれば、親族代表の挨拶という大役もある。
その時は、肩書きの一つや二つ、無いよりはあった方がいいな・・・


それから数十年の時が経ち、その日が来た。
長男の結婚式だ。
その日だけスズキ部長から、部長を替わってもらったサトウさん。

営業部長として臨む華燭の宴

「父さんって、いつから部長だったの?」
準備段階で、役職を尋ねた時、息子は驚いていた。

表情ひとつ変えず、
まぁ取り立てて言うことじゃないから言わなかったのさ。
「その日だけ」とは言えず、さらりとかわす。


宴もたけなわ、そろそろお開きの時間が近づいた。
結婚式のラストと言えばこれ。
新婦が号泣のもと、父母に手紙を読む。
親が子の巣立ちを慈しみ、子は親に感謝の精算を果たす。
時代の流れは速まっても、この図式だけは変わらない。


「お母さん、これまでいつもあまのじゃくでごめん。
生んでくれてありがとう。
お母さんの娘に生まれてよかった」

会場の誰もが、じんましんを我慢しながら、聞き入っている。
なかには、真に受けてもらい泣きするご婦人もいて、
サトウさんは、目を丸くして驚く。


さぁ、いよいよオオトリだ
と思った途端
え゛おおとりけいすけ
と心で言って、吹き出しそうになるのを、指をつねってこらえる。


「それでは最後に、親族を代表して、新郎の父**よりご挨拶を申し上げます」

新婦に当てられていたピンスポットが、次のターゲットを探している。
かつて、カラオケボックスがなかった頃、カラオケバーのステージでスポットを浴びたことはある。
あの日、以来だ。
悪くない・・・
サトウさんは自分に当たったスポットに目がくらまないよう、虹彩を調節する。

照明が落ちたホテルの宴会場
ピンスポットが止まった。

すっくと立ったサトウさん。
口を真一文字にむすび、前方を見据えた。
そこで、どよめきが起きた。
誰もが迷っている。


でも、こらえきれずに、新郎の友人が吹き出した。
ここは笑うところなのか?
場内には爆笑と失笑、そして嘲笑が交錯する。
今度は、さっきまで泣いていたご婦人が、目を丸くしている。
親戚の円卓からは、愕然としたざわめき。


業者のビデオカメラがズームで寄る。
カメラ係を委嘱された長男の親友は機転を利かして、周囲の表情をひとなめする。
ここは、観衆の反応も美味しい。

ピン・スポットに照らし出された
サトウさんの左肩には
「一日営業部長 佐藤」のたすきがかかっていた。
*このお話はフィクションですよ。

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