子どもの結婚式、ヒラ社員ではかっこがつかない
営業部のサトウさんは万年ヒラ社員である。
若い頃は、出世を夢見ていたが
エリートと呼べる経歴を持たない彼は、いつしか年下の上司に囲まれた1社員となった。
現代は生き馬の目を抜く時代。
社会情勢が移り変われば、消費者の好みも変わる。
いずれもスピードが速い。
一旦、出世してトップに上り詰めたとしても、それが僥倖といえたのは今は昔。
時期が悪ければ、上り詰めていたことがリスクとなり、くだり坂への道が待つ。
20台の社員にアンケートをとると
「出世しなくてよいから、仲間と楽しく過ごすプライベートを愉しむ時間が大切」
と答える人のほうが多くなって久しい。
この時代、トップにいることは、日々試練、ストレスとの戦いである。
サトウさんの上司、スズキ部長は最近、めっきり老けた。
会議では、いつも眠そうな目をしている。
覇気がない。
他人のうわさ話が好きな暇人たちは、
「スズキ部長やばいよね。左遷されるんじゃない?」
「ということはいよいよ、まさかの***時代到来?」
などとささやき合っている。
魂の質が低いことだ。
ある日のこと
サトウさんが営業会議を終えて、その場で資料をまとめていると、傍らにスズキ部長がいた。
すっかり疲れた表情。
目が合うと、にっこり
すっくと立ってひとこと言った。
「サトウさん、僕と替わってよ~」
サトウさんは、一ひねりある男だ。
しばし、沈黙して答える。
「そうですね。じゃ、今度、うちの娘の結婚式の日に、1日だけ替わりましょうか」
話しは数十年前に遡る。
サトウさんが28歳で結婚した時、その父親はある商工組合の会長を務めていた。
新郎側の来賓席には、地方の名士と呼ばれる人たちが居並んでいる。
その中にぽつんと1人、彼の親友が座り所在がなさそうだ。
彼はビデオの撮影技術に定評がある男なので、業者ビデオとは別にハンディカムの撮影を頼んでおいた。
本来、友人席に置くところだが、正面の特等席からの絵を押さえてもらおうということだ。
周囲のお歴々、なんだか場違いな若造が混じっているなと怪訝そうだ。
「新郎の父、**さんは、○○商工組合の会長を務めておられます」
司会者がそう紹介すると、場内がざわめいたのがわかった。
そうかぁ、父親は立派な人なんだ。
それならば、サトウ君も将来有望だな。
既に酔っ払っている老齢の賓客が冷やかしている。
日本では「役職がある」→「偉い」→「立派」と考える人が多い。
心からそう思っていなくても、そう言っておいた方が波風が立たない。
企業が個人の評価を決める時、本人の人となり、業績をみる。
だが、学歴や経歴によって、違うスタート地点が設定される。
父親が偉いかどうかなど、人事部はまったく見ていない。
もし、見ることがあるならば、それは父親が業界を管轄する役所にいるというケースだろう。
つづく
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