はば はば!というおばあさんに出会った
その日、僕は病院の受付の行列に並ぶ民間人だった。
病院内にあり、検査、診断書、紹介状など文書の受け取りを担うカウンターはとても混み合っていた。
なぜ、混んでいるかというと受付が1つしか開いていないからだ。
本来3つあるカウンターのうち2つに「close」の札が立っている。
受付に座って、事務をこなしているのは30代と思われる女性クラーク(医療事務員)が1人だけ。
午後一番の時間帯だから、他の人達は交替でお昼にでも行ったのだろうか?と思って、奥を見やると2人のクラークが立ち話をしている。
(数分後、このうちの1人が1つのカウンターを開けた)
(数分後、このうちの1人が1つのカウンターを開けた)
喫緊の要件というわけではないようで、その口元には時々笑みが浮かんでいる。
僕が並んだ時に、行列は3人だったが、後ろをみると、今や廊下の角を曲がってその先にまで伸びている。
その列が見える位置で2人のクラークは、引きつづき立ち話を続けている。
ここでは、きっと、そういうものなのだろう。
病院内で並んでいる人は、基本的に皆病人である。
僕のように、今すぐ倒れることはないような比較的健康な病人ばかりではなく、長い時間立ち続けることや、待たされているというストレスによって具合が悪くなる人も居る。
それでも、ここで誰かがぽっくり逝くことはないだろうし、彼女たちには大切な話しがあり、自分の担当時間外にカウンターに入るか否かを決めるのは彼女らの自発性に任されている。
その証拠に医師らしい白衣の男性は彼女達をカウンターに促さないし、孤軍奮闘のクラークも「カウンターお願いします」と応援を求めない。
誰も強制はできないのだ。
そんな空気を破る一言は、列の先頭が回ってきたおばあさんの口から出た。
はば はば!
行列ができとるよ!
今日は内科の佐藤先生が来とるやろ?
順番とって!
失笑を浮かべながら、コンピューター端末と向き合うクラークが手間取っていると、再び「はば はば!」
懐かしい、その言葉を聞いたのは久しぶりだ。
恐らく10年くらい前だろうか。
それは故郷の母がまだ快活に話しができた頃の口癖だった。
1度、その意味を聞いたことがあるが、元は英文でそれを省略した言葉だということだった。
いまGoogle先生に尋ねると、コトバンクが答えてくれた。
デジタル大辞泉の解説より
ハバ‐ハバ(hubba hubba)
早く早く。第二次大戦後、日本に駐留した米国軍が持ち込んだ語。
引用終わり
はば はば!
のおばあさんは、年の頃80歳。
それを言うのはなぜおばあさんなのだろう。
おじいさんが言うのを聞いたことはない。
父はこの言葉を使っていなかった。
終戦当時10歳前後だった女性に、駐留するアメリカ人が「はばはば」と言う情景を想像してみても、見当が付かない。
「はばはば」を言う時、おばあちゃんはとても楽しげだ。
目くじらを立てた「おい、急げよ」という詰問調ではなく、ほらほらはよせんば!(佐世保弁)という暖かい励ましを含んでいる。
その口調からしても、決してその言葉を苦い経験と共に心に刻んだのではないと推察できる。
女性向けに駐留軍を美化するエンターテインメントでもあって、その中で使われていたのだろうか。
「はばはば」を言う時、おばあちゃんはとても楽しげだ。
目くじらを立てた「おい、急げよ」という詰問調ではなく、ほらほらはよせんば!(佐世保弁)という暖かい励ましを含んでいる。
その口調からしても、決してその言葉を苦い経験と共に心に刻んだのではないと推察できる。
女性向けに駐留軍を美化するエンターテインメントでもあって、その中で使われていたのだろうか。
母に聞ければいいのだが、現状では叶わない。
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