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2015年9月21日 (月)

手術前夜に眠れない理由

「手術中」の紅いランプが消える。
僕は、手術が終わり廊下に出る。
予定通り、うまくいった。我ながら、会心の出來だ。
薄暗い手術室の前の廊下には、患者の家族が心配そうな顔をして待ち構えている。

こちらの表情をうかがう奥さん。
僕は緊張した表情を少しだけ崩して言う。
「手術は成功しました。安心してください。なにも問題ありませんよ」
緊張が解けて目頭を押さえ「ありがとうございます。先生のお陰ですだぁ」とすがりつかんばかりに喜ぶ家族。

しかし、もしもそこに誰も居なかったら・・・

あれっ?家族、誰も来てないの?
せっかくうまくいったのにさ。
僕の完璧な手術をちょっとはありがたいと言ってもらいたかったな・・・


まずいじゃないか。

回復を願う誰かがそこに居るという動機付けは、手術に臨む医師にとって大きいのではないか。

あるときは夢、またある時は闇との会話。それを人は妄想と言う。
村上春樹は妄想を「モラルと制度の抑制を離れた想像」と定義している。
妄想を妄想のままにせず、それに対処する努力をすれば、未来のルートを変えることができる。


16:00
検査室からCTに呼ばれる。
一週間前に撮って以来、2度目のCT。
恒例により、ヘルパーさんが着いてきてくれる。
帰りの道には迷いませんからと言って、お迎えは辞退した。


18:00
そろそろ夕飯が届こうかという時間帯。
「遅くなってすみません」
手術時の全身麻酔について、麻酔医が説明に来てくれた。
麻酔の説明と同意書にサイン。
日頃、決済の署名をすることがないので、このところたくさんの同意書にサインして、まるで売れっ子作家にでもなったような気分だ。

ただ惜しいのは、字が汚い。
自分の名前はここまでの生涯で最も多くの回数を書いて来たというのに、この体たらく。
せめて、自分の名前だけでも上手くなりたい。

「自分の名前上達ペン習字コース 1回5,000円」
そんなコースを自己啓発セミナー業者さんにやってもらいたい。


「となり明日手術だよ。ありゃ眠れないね。気になって前の日は眠れないよ」
ひょうちゃんが僕が受けている説明を聞きつけて、爆音で話している。
聞こえてますけど・・・
まったく、余計なお世話だよ。
モラルはないのか、この爺さん。
この時はぐっすり寝てみせる!と思っていたが、夜中にそのひょうちゃんに起こされることになるのだった。



夕飯の献立は、とんかつ イカリングフライ
おぉとんかつが出るのか。これは今後の展開に期待が持てるな・・・と思っていたが、結局このメニューが最後のごちそうになってしまった。

イカは食べられないので残していると、再び平原さんがやってきて「イカ(ダメだって)言ってなかったかな・・・」
そういえば、昨日の初期説明で食べられないものの一つとして挙げた気がする。

イカはいかん

と言いそうになったがやめた。
そういうのが通用するのは、もう少し若い頃の話。
今はまさに、その名の通りのギャグになってしまう。

まぁ、おかずが一つ減ったからと言って大勢に影響ない。
手術に備えて、ここ一か月はしっかり食べて栄養を充てんしてきたのだ。


いよいよ明日手術 不安はない
確信して前に進むのが最善の道


21:40
頭痛がでたため、様子をみにきた平原さんに相談するとロキソプロフェンを出してくれた。
病棟にも薬剤師がついていて、状況に応じて処方してくれるのだという。
これはとてもいいことだ。初めて知った。


3日目 手術当日
4:00
ナースコールどこ行ったんだろうな
弱ったなぁ
おーい ぱんぱん

居酒屋でお銚子を頼むような柏手で目覚める。
天井灯が点いていないところをみると、まだ夜中らしい。

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