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2015年10月28日 (水)

幽体離脱してみた経鼻内視鏡頭蓋底手術

あっという間に眠りに就いた僕
スタッフの皆さんは、予定通りだと思っただろうか。
それとも「はやっ」とつっこんでくれただろうか。

ここで満を持して牧野医師が登場する。
と言っても、僕にはその姿は見えない。
次に意識を取り戻すのは、これから4時間後のことである。


「それでは、これより千葉龍一さんの経鼻内視鏡頭蓋底手術を始めます」
恐らく、このような口上で、スタッフが臨戦態勢に入っただろう。


下垂体腺腫の除去手術は、この経鼻内視鏡頭蓋底手術で行われる。
この方式は低侵襲な手術として、およそ10年ほど前に始まった。

「低侵襲」とは、患者の負担が軽いという意味である。
この方式が開発される以前は、口を開け腔内を切り開いていた。
ちょうど口避け女のように開口部を作り、そこから下垂体までの経路を確保していたのである。

そのため、腔内に大きなキズが残った。
キズが元通りになるまのに時間がかかるので、患者の回復が遅い。
恐らく術後の入院期間も、今のように2週間では済まなかっただろう。

また、従来は顕微鏡を使用していたため、死角となる部分があった。
そのため、希に動脈を傷つけるような事故が置き、輸血が必要になるといった事態もあった。
今回も合併症説明のなかで、そのような事態になった場合、死亡という可能性が言及されていた。

牧野医師からは「ただしそれは、内視鏡を使っていない頃の話です」と説明された。

経鼻内視鏡頭蓋底手術では、内視鏡を使うため、従来は死角だった部分が見える。
腫瘍のとり残しといった可能性が下がり、より根治的な治療が可能になった。


経鼻内視鏡頭蓋底手術は、10年以上前にはなかったハード(内視鏡ナビゲーション)ソフト(手技、チーム医療)両面の進歩により可能になったのである。


ちなみに、下垂体腺腫は子供より大人に多い。
よほど腫瘍が巨大でない限り、経鼻内視鏡頭蓋底手術が可能である。

10数年前に下垂体腺腫を患っていたら、腔内を切り開き、長い入院をしなければならなかった。
今回は、医療の進歩に切実に感謝した。

現代においても、すべての病院が経鼻内視鏡頭蓋底手術を行えるわけではないので、下垂体腺腫となった場合、経鼻内視鏡頭蓋底手術の手術実績が多い病院を選ぶとよい。



鼻から内視鏡ナビゲーションにより、先端にメスがついた内視鏡が下垂体へたどり着く。
遠隔操作画面で腫瘍(腺腫)を視認したら、メスを入れて腫瘍を切り開く。
それから、吸引ノズルを使って腫瘍をかき出す。
歯医者で使う、唾液・水分を吸い取る吸引器のようなものだと思えばよい。


つづいて、内視鏡によりとり残しがないよう、腫瘍を掻き出す。
下垂体腺腫には、一定比率の再発リスクがある。
くまなく、掻き出すことが、そのリスクを下げることにつながる。

この時、かすかに下垂体本体に傷を付けてしまうことがあり、それによってホルモン剤の使用が必要になることが、事前に説明されていた。

ここは、医師の手技次第と言える。
いわゆる巧い先生に当たれば、術後の回復がめっぽう速いと言うことになる。


腫瘍を掻き出すと、腫瘍があった場所が空洞になる。
すると、腫瘍におされていた下垂体とその上にある視神経が降下する。
その降下速度をゆるやかなものにするため、腫瘍のあった場所に"解ける綿"のようなものが詰め込まれる。
あとは、時間をかけて詰め物が解けて、本来の位置を取り戻していく。


こうした手術の一部始終は、幽体離脱して上空から見ていた。
わけはない。

事前に調べておくこともできたが、患者が手術を研究することでプラスになることは何もない。
むしろ、知ってしまうことで怖さが生まれるというマイナス面がある。

手術の内容は、退院後、ゆっくりと文献やインターネットを通してしらべたものである。


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