新人と名乗る若い看護師
おーい ぱんぱん
ひょうちゃんはほとんど目が見えていない(らしい)
寝ている間にナースコールがどこかに落ちてしまったのだ。
ナースセンターまでは遠く、その弱々しい拍手が届くような距離ではない。
かつて、体操選手内村航平は「寝起きでもウルトラCができるくらいに練習している」と語っていた。
僕も、目覚めてから運動に移るまでの速さには自信がある。
恐らくそれは、学校にいた頃から近年まで、遅刻すれすれに起きる習慣で鍛えられたのだろう。
このまま、おーいぱんぱんが続いては敵わない。
ひょうちゃんのためというよりは、自分のためだ。
ベッドから飛び起きると、靴を履いてナースセンターへ歩き出す。
すると、ちょうどむこうから平原さんがやって来るところだ。
となりの人がさっきから呼んでいますよ!
「ありがとうございます」
彼女はそう応えたが、この行為が歓迎されるものだという自信は持てなかった。
夜中の病棟の廊下ということもあり、彼女の言葉はとてもテンションが低かったからだ。
もちろん、退院までの間に、ひょうちゃんから感謝の言葉が聞かれることはなかった。
7:10
「千葉さん検温お願いしま~す」
平原さんが来た声で再び目覚めた。
悔しいけれど、あまり眠れていない。
手術当日は朝ご飯、昼ご飯、晩ご飯すべて抜き。
歯を磨き、VIDANで髭を落とすとすることがなくなった。
ベッドのリクライニングを起こして、本を読んで過ごす。
「スマホは充電禁止」と言われたが「使用禁止」とは言われていない。
だが、堂々と使うのは気が引ける。
各ベッドの天井には、監視カメラが備え付けられている。
これは13年前の入院時にはなかったことだ。
常に見られているという環境は、通常に暮らす限りそれほど苦痛ではない。
特殊なことをしなければいいだけだ。
少しだけスマホでメールをチェックしていると平原さんがやってきたので、すぐに仕舞う。
「頭痛のことは心配しないでください」
彼女のことばは抑揚にメリハリがあって感じがいい。
昨晩出してもらったロキソプロフェンのお陰か、頭痛はずいぶん楽だ。
9:20
「新人の石川です」
日勤の担当者が挨拶にくる。
一瞬、息が止まる。
新人?
社会人が自ら、その言葉を言うのは禁句だと思っていたからだ。
社会人が自ら、その言葉を言うのは禁句だと思っていたからだ。
仕事をしていて、後輩の新人と接するのは楽しい。
その圧倒的な元気さ、吸収力に接して、こちらの教えたい病がうずくからだ。
だが、その新人が唯一無二の担当者として、自分に宛がわれたとなると、話しは違ってくる。
特にここは医療の現場であり、新人だから少々採血が下手でもいいということはない。
もちろんそんな人はいないはずだ(そう願いたい)
あえて「新人です」と名乗る真意があるのだろうか。
一瞬でそんなことを考えたため「はぁ」という気のない返事になってしまった。
彼女はその後もずっと、交代の挨拶の度に「新人の」という冠をつけていた。
堂下総合病院、脳神経外科看護師たちの伝統により、1年間は「新人の」と名乗ることになっているのかも知れない。
さすがに、そういうしきたりなのか?という質問は誰にもできなかった。
さすがに、そういうしきたりなのか?という質問は誰にもできなかった。
昨晩、頭痛があってロキソプロフェンを出してもらったことは、新人の石川さんも承知していた。
9:00からナースセンターミーティングが行われており、そこで申し送りがされているのだろう。
彼女は、ひとつひとつの説明が丁寧であり、とても安心感がある。
初心を忘れず基本に忠実という印象だ。
カーテンの外で平原さんが、石川さんを指導している。
石川さんはそれを真綿のように吸収していく。
目の前の仕事に主体的になることは、年齢に関わらず難しい。
自分が主体的に仕事に取り組むと決めて、勉強するかしないか。
彼女のようにできる人は、現代社会においてとても少ないと思う。
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