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2015年10月13日 (火)

手術の朝という経験

手術に呼ばれるまで5時間弱。
自宅から持ってきた6冊の中から松岡圭祐「千里眼優しい悪魔」を読んでいる。
「千里眼」シリーズは年末年始などゆっくり時間がとれる時に、少しずつ読み進めている愛読書。
松岡圭祐の映像を文書にする力は群を抜いている。

だが、それが今日は凶と出た。
場面がぐろくなってきたところで、この後受ける自分の手術とイメージが重なり、気分が悪くなってページを閉じた。

残り5冊から、たかぎなおこ「アジアで花咲け!なでしこたち-たかぎなおこが海外の働き女子に出会う旅-」に取り替える。
日頃、人前で漫画は読まないと決めているが、"闘病中"根を詰めて活字が追えない状況を想定して、漫画を2冊入れてきたのは正解だった。

となりの男性も今日が手術。
予定時間は、僕より2時間ほど早い。
面会時間には早いが、既に家族が来て、手術前のひとときを過ごしている。
誰かと話すだけでも、気が紛れるだろう。

だからと言って、それが羨ましいということもない。
ひとり、こうして手術を待つ朝という経験は、滅多にないものだ。
1億人の日本人のうち、半分も経験しないかも知れない。
この経験がなにかに生きるということはないかも知れないが、それが希望のあるものならば、あらゆる経験は悪くないと思う。


9:45
「ゴミを回収します」
清掃担当のおばちゃんがゴミを集めに来てくれた。

ゴミ箱はあるけれど、このゴミは自分が何処かへ捨てに行かなければならないのか?
入院して2日そのことがずっと心配で、最後の気がかりだった。
これで入院生活の疑問点はなくなった。
いや、スマホのことがあるか・・
それはまた、手術後にゆっくり解消すればいい。


10:30
お腹がグーと鳴る。
数十年、朝食は食べていない。
それを身体はわかっている。
だが、珍しく昨日食べたものだから「今日は食べないの?」と問いかけているのだろう。

準備はできている
落ち着いている 恐くはない


10:45
主治医の牧野医師が病室に来てくれた。
「がんばっていきましょう」
はい!少年のように素直に応える。

いや、頑張るのは先生ですよ!
と心の声がつっこんでいるが。

そういえば、執刀医は牧野先生だと思っているし、事実そうなのだろうが、一度も「先生が手術するんですよね」と聞いたことはない。
手術室では僕が麻酔で眠った後に登場するのだろうから、誰が手術するのかはわかりはしない。


11:30
副担当(そういう言葉はない)の長井医師が説明にくる。
説明・同意書にサイン。
これで手続きはすべて終了した。
手術予定時間まであと3時間を切っている。


12:30
配膳が終わり、いつもの和やかな喧噪が去った頃。
「そろそろ準備しましょう」
新人の石川さんが声をかけに来た。

いよいよか・・
落ち着かない読書を切り上げて、身体を起こす。
心は澄んでいる。


生涯初めて履くT字帯(Tパンツ)
もちろん、誰かに手伝ってもらうわけではない。
石川さんは、雰囲気を察して帰って行った。

ふりちんで寝転がって試行錯誤している姿は、誰かに見せたいものではない。
ずっと監視カメラが捉えていると思うと、心穏やかではない。

「履けましたか?」
頃あいを見計らい石川さんがストッキングを持って来る。
しばらく寝たきりになる間、エコノミー症候群にならぬよう、膝から下に強いコンプレッションのストッキングをはくのである。

「履きづらいでしょ?」
彼女が気遣ってくれるが、マラソンの日に履いているCW-Xと較べるとずいぶん楽だ。

「はぁそうですか~」
僕の解説口調が災いしたのか、新人の石ちゃんは手応えのない返事だ。
まぁ、ここは手応えを求めている場合ではない。
目の前の一分に集中しようと気持ちを切り替える。



牧野医師、長井医師、スタッフの皆さん、皆優秀だ。
なんなんだ、この人は?
という人が1人もいない。

MRIを撮った病院で、紹介先の"大病院"として2つの選択肢を示された。
その時の僕には、大病院はどこでもハズレはないだろう・・という認識しかない。
"駅から近い"という理由だけで、堂下総合病院に即決した。

手術がここでよかった。

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