手術明けMRI 難問解決プログラムを乗り切る
検査室の前の椅子には、CTを待つ一般患者が腰掛けていて、うつろな目で視線を送ってくる。
ついこの間は、僕があの場所でストレッチャーに乗った患者を見ていたのだった。
ストレッチャーに置いといてもらったティッシュを抜いて、血の塊を出す。
それをレジ袋で誂えた簡易ゴミ袋に投げ込む。
手術翌日の患者と言えば重病人。
さほど待たされることなく、CTに呼ばれる。
いつもより、スタッフの人数が多いことを除けば、CTはいつも通りの短い時間で終わる。
そして、間髪を入れずにMRI室へ移動。
この後は「MRI」と「造影剤MRI」のダブルヘッダー
そこではさっきより、さらに大人数が僕を取り囲んだ。
ICUの看護師、造影剤の担当者、MRI技師・・
手術とは違って1人1人自己紹介があるわけではないが、まぁそんなところだろう。
両方の鼻は人工的に塞がれている。
この1時間に降りて来た血の塊はのみ込むしかない。
呼吸が苦しい。
それでも僕は行かなければならない。
腫瘍があった場所が、手術後も「予定通り」の状態を維持しているか。
手術後に避けては通れない検査だ。
自動車試験場で言えば、仮免試験くらいか・・
と呑気なことを考える余裕はない。
どうやって、この1時間を乗り切るか。
そこに一心を集中する。
そこで、出てきた答えは昔、自律訓練法に取り組んでいた時のキーワードだった。
まず第一部のMRI。
ナースコールをしっかり握った僕は、フルフラットの姿勢でMRI装置に吸い込まれていく。
心はリラックスしている
自律訓練法で学んだ、そのワンワードを繰り返す。
いつものMRIでは、恐くならぬようわざと口を開けているが、今日は口を開けないと息ができない。
生まれて初めて口呼吸のMRI。
必死だ。
どれくらいの時間が過ぎただろう。
一旦装置の外に出され、造影剤の針が腕に刺さる。
「気分は悪くないですか?」
悪いです
僕が嘘つきでなければ、そう答えただろう。
だが、ここで正直しょうちゃんをやっても仕方ないことはわかっている。
この続きをやらなければ、僕の手術の結果がつかめない。
ここにいる皆さんが、そのために必死になっている。
前に進むしかないのである。
大丈夫です
大丈夫です
許容範囲の嘘を言って、僕は再びMRI装置へ。
映画館のブザーが開幕を告げ、左腕から身体がほてるような液体が侵入し身体を満たしていく。
どこかの宗派の坊さんがあげるお経のような、一定の周波数で鳴る騒音。
心はリラックスしている
ここが人生最大の試練だ。
これを乗り切れば、大きな自信になる。
ここを乗り越えれば、僕はまた強くなれる。
強くなりたいとか、強いの弱いの、そういう歯の浮くような台詞が出て来る歌詞やドラマには、いつもならば苦笑いを浮かべる僕が、今日はシリアスにその言葉を使っていた。
工事現場の騒音が止んだ
もしかして、終わりなの?
いや、油断させておいて、もう1回があったら、ショックが大きい。
油断は禁物だと考えていたら、がーっとショッカー基地のドアが開いてゾル大差が現れるような音がして、僕は娑婆に戻された。
おわた・・・
へらへらと笑うしかない
「大丈夫ですか?」
気遣ってくれる看護師
へぇ
気のない返事が精一杯。
だが、心は晴れ晴れしていた。
これだけの艱難辛苦は生まれてこの方経験がない。
難問解決プログラムなのかと思ったが、昨晩から今日にかけての波状攻撃を乗り切った安堵が心を満たす。
がらがらがら
再びさっき来た道をICUに戻る。
人生最大の山場を乗り越えた僕には、長くつづく廊下の先に見える戸棚や計器さえも、僕の未来と希望に微笑んでいるように見えた。
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