ある国で行われた、国民総裁判
とてつもなく広い平原にその国の人々がすべて、集められている。
全国民がはいる平原があるということは、恐らく西洋のどこかの国なのだろう。
平原の真ん中には南北に1本の線が引いてあり、そこから西側には「YES」東側には「NO」の看板が立っている。
これから、この国の人々すべてを対象にした「総裁判」が開かれるのである。
総員を改選すれば「総選挙」
総員を裁くから「総裁判」である。
司会者が読み上げる質問が、スピーカーを通じて平原の隅々に行き渡る音量で流れる。
いよいよ、開廷の時が来た。
「第1問です!あなたはスマホを操作しながら舗道を歩くのはマナー違反だと思いますか?」
司会者ががなり立てる。
9割の人が「YES」サイドへ移動した。
「つづいて第2問!あなたはスマホを操作しながら舗道を歩いたことはありませんか?」
それを聞いた大半の人が無表情になる。
そして、少しだけ間があった後「YES」サイドから2割の人々が「NO」サイドへと移動した。
おいおい、嘘だろ。
「NO」がそんなに少なかったら、駅のホームやコンコースはあんなに混まないって。
「YES」サイドに留まったスズキさんが失笑する。
「第3問!道路標識の"止まれ"の前では、自転車も一時停止しなければならないと思いますか?」
「NO」サイドにいた人達が移動してきて「YES」サイドは再び9割の人で埋まった。
司会者がたたみかける。
「つづいて第4問!あなたは自転車を運転中"止まれ"の標識の前で必ず一時停止しますか?」
仕方ないなという表情を浮かべて「YES」サイドにいた人がぞろぞろと「NO」サイドへ映る。
それでも「YES」サイドにはまだ、8割の人がいる。
一時停止っていうのは、車輪が完全に停止するという定義なんだけど、自転車でそんな人見たことないぜ。
自転車を持っていないスズキさんが「YES」サイドで嘆いている。
「第5問!あなたは満員電車から降りる人が、無言で出口付近の人を押しのけるのはマナー違反だと思いますか?」
「NO」サイドから人が戻ってきて、再び「YES」サイドが9割になる。
「つづいて第6問!あなたは満員電車から降りる時、必ず"降ります"と声をかけて降りていますか?」
総裁判は延々とつづいた。
誰がどの質問でどう答えたか。
その記録はとられていなかった。
そこに裁判の勝者もなければ、敗者もなかった。
奇数の質問はその常識を問い、
偶数の質問はその行動を問う。
すべての質問で「YES」サイドと「NO」サイドを交互に行き来した人がいた。
彼らはその行動を恥じていた。
いくつかの質問で「YES」サイドと「NO」サイドを行き来した人がいた。
ある時は人の行動を裁き、ある時は裁かれる。
その体験から彼らは貴重な気づきを得た。
そして大半の人が始まりから終わりまで「YES」サイドに居た。
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