脳外科医は視野の改善を力説する
手術後8日め
朝の計量で体重が下げ止まった。
日増しに歩く量が増えてきたからだろうか。
夜中に2度目が覚めたが、昨日よりは熟睡感が増している。
ベッドから降りた時、瞬時に立てるようになっている。
これまでは、ぎっくり腰をやらないよう、おっかなびっくりで立ち上がっていた。
トイレまでの歩きが軽い。
これまでは、暗闇を手探りで進むような歩みだったのだ。
7:30
「今日から、血圧と体温は昼の1回のみになります」
明石さんがやってきて告げた。
もう頭の中はAKB状態。
ごく一部の人を除いて誰が誰だか、区別がつかなくなっている。
8:10
朝食のパンに付いているマーガリンが美味い。
いつもならばカロリーを気にして口にしないところだが、今は筋肉を作り直すのが先決だ。
これほど、マーガリンを塗りたくるのは、小学校の給食以来だと思う。
9:30
予約より90分速いが、耳鼻科に呼ばれたと聞き、二つ返事で駆けつける。
耳鼻科に行く度に快適さが増していくので、恋人からのメールが届いたかのように嬉しい。
毎回、医師が違う耳鼻科。今日は女医だ。
手さばきがきびきびしている。
びしびしと吸引してくれて気持ちがいい。
「次回はどうしますか?そろそろ退院が近いですよね」
と尋ねられて、2日後の月曜にもう1度予約を入れる。
わざわざ家から来なくてもいい今のうち、徹底的に良くしておきたい。
「退院後はお近くの耳鼻科で診てもらいますが、どこかありますか?」
耳に水が入った時に駆けつけた耳鼻科の名を挙げて、紹介状を作ってもらう
こうして連携医療の道筋まで示してくれるのは、とても助かる。
立ち向かっていこう
10:15
副担当の長井医師が来る。
「視野の状態は普通以上ではないですね」
普通ですと言えばいいのに・・
ここまで術後の検査が軒並み「順調」だったから、彼としても少し残念なのかも知れない。
「視力はこれからよくなるはずですよ。現状では火曜日が退院予定日です」
下垂体腺腫の術後、医師たちは「視力」「視野」の改善を力説する傾向がある。
僕としては「女性ホルモンが増えて、髪が生えてきますよ」といった言説をいただきたいのだが、誰も言ってくれない。
退院後は、外来でホルモンの薬を処方する。
いつまで投薬が必要かは、今後の(ホルモンの)データ次第ということだ。
リハビリを兼ねて、近隣の図書館に外出願いを出していたのだが「尿の排出量が把握できない」という理由で却下された。
14:30
談話室で本を読んでいるところに中村君が来た。
レストランでケーキセットをご馳走になる。
病院内レストランということもあり、ドレスコードは何かを羽織ること。
カーディガンを羽織ってはいるが、上下はパジャマ。
パジャマでレストランに入るのは、これが最初で最後かも知れない。
いつもならば、相手のことばを処理して、気の効いたレスポンスを脳で作り、ほぼ同時に声帯から言葉にする。
ところが、どの機能も少しずつ、さび付いていてもどかしい。
僕の番だから喋ろうとしているのだが、いつもの僕を知る彼からすると「反応がない」と見えるようで、続けざまにその先を話す。
病人なんだから、ちょっとゆっくり喋ってくれよ
そう言いそうになったが、せっかくの休日に遠くからやってきて、ケーキをおごってもらっていることに鑑みて、思い留まった。
気心の知れた彼ではあるが、1人の人と2時間を共に過ごすのは、健康なときでさえ気が重い。
これはこれで、いいリハビリだ。
お代わり自由のコーヒーを2杯のんだせいか、消灯後3時間も寝付けずに参った。
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