脳腫瘍の手術から6日め、コーヒーの許可が出る
脳腫瘍の手術から6日め。
今朝は早起きして「ホルモン負荷試験」という大イベントをこなしたので、もう1日生きていることの意義を成し遂げた気がしていて、のんびりムードだ。
マラソンレースに向けて走っている頃、午前中に練習を終えて、午後はゆっくりと部屋でくつろいでいる。
あの時に似ている。
10:20
「いま緊張していますか?」
石川さんが、僕の目をのぞき込んでいる。
血圧の下が85だったからだ。
いつもならば60代なのだが・・
確かに若い女性に手を取られていて、緊張していないというのは嘘になるが
「いやぁ若い娘に触られるのは久しぶりで」
などと言ったら、2度と口をきいてもらえないだろうから「教授回診で緊張したのかな」と口を濁す。
13:00
はす向かいのおじちゃんは手術の時間。
今日はこの部屋を担当している日勤は石川さん。
自らを「新人の石川です」と名乗る若者だが、なかなかの頑張り屋さん。
しっかりとモノを言うし、わからないことはすぐに確認して来てくれる。
その石川さんがやって来て、きっぱりとこう言った。
「**さん、お迎えにきました」
オムカエ・・
目が点になる僕
これから脳の手術に向かう患者への台詞としてはシュール過ぎる。
「え゛?お、おむかえ・・って」
というおじさんは絶句しているのか、苦笑いなのかはカーテンの向こうなのでわからない。
「うがいできてますか?」
おじさんを手術台に送り込んだ石川さんがチェックに来た。
かまってくれるのが嬉しい。
日常生活ではなかなか、かまってもらえない。
個人差はあるだろうが、人は誰でもかまってもらいたい生き物だ。
だから、うさぎがピスケに「かまってちょ」とねだる絵が2014LINEスタンプ準グランプリになっている。
周りに人がいるのに誰も自分の存在を認識してくれない時、恐怖すら感じる。
だから立食パーティが苦手だ。
看護師が「失礼します」とカーテンをめくってくれると、全然失礼なんかじゃないですよ。もうそんなしゃちこばらずにどんどん失礼してよ。
と口にこそ出さないが、顔には出ているだろう。
15:00
爆音ケイちゃんがやって来たので談話室へ逃げる。
主治医や看護師が用事で来た時に追跡できるよう「談話室に居ます」と書き置き、パソコン許可が出ていないので、iPhoneとブルートゥースキーボードを持参。
ウェブページに載せる記事を書いていると、看護師の福岡さんが「この後、CTに呼ばれます」と教えに来てくれた。
「何ですかっそれ?」
ちょっとオーバーなツッコミが嬉しい。
確かに、iPhoneにキーボード入力している人を、街で見かけたことがない。
ずっと疑問だった「部屋ではスマホは使えないんですよね?」を尋ねてみると意外な答えが。
「LINE、メールは部屋でやっていいんですけど、通話はここでお願いします」
入院前説明の「スマホの充電は禁止です」は、なんだったの?
どうやら、コンセントから電力を受給することがダメということだったようだ。
紛らわしい。
続いて、初めて見る看護師が挨拶に来てくれた。
「今晩、夜勤を担当する伊勢です」
いったい、どれだけ人がいるのか・・
顔と人の名前を一致させるのが、イカを似て店頭販売しているスーパーと同じくらい苦手な僕は、既に頭が混乱している。
目の前にその人がいれば、名札を見ればよいが、あれは誰だっけ?と脳内で想像した時に、1人の顔で3人くらいの名前が浮かんでしまう。
服装が同じだから、どの人も顔が同じに見える。
ファン以外の人が、AKB48が皆同じ顔に見えるアレと同じだ(どれだ?)
看護師顔写真一覧でも配ってくれないと、とても覚えきれないが、それはそれで問題がありそうだ。
16:00
CTに呼ばれる。
久しぶりにフラットに寝た後、歩いたら患部からけっこうな量の血が降りて来た。
夕飯は魚の照り焼
お粥との相性は抜群・・
魚は嫌いではないのだが、それにしても魚が多くないか?
前に別の病気で入院した時は、もっと肉も出ていたぞ。
この病気に肉が悪いとは思えないが。
病院の裏に生け簀でもあるんじゃないか?
その疑問は退院までつづく。
とにかく、来る日も来る日も魚メニュー。
脳内では、生け簀から揚げられた大量の魚が調理場に運び混まれる映像が浮かんでいた。
夕飯を終えて、手持ちぶさたにしているところに夜勤の福岡さんが来た。
福岡さんは石川さんの指導係に当たるらしく、よく2人してやって来る。
「コーヒーと、それからパソコンもOK出ました」
朝、石川さんに頼んでおいた件の返事を持ってきてくれた。
明日からはまた少し、普段に近い生活になりそうだ。
相部屋の2人がICU泊まりで、初めての静かな夜。
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