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2016年4月 5日 (火)

靴を踏まれないか恐怖症

「靴を踏まれないか恐怖症」を患ったのは今から2年前。
「長野マラソン」でのことだ。

スタートのピストルが撃たれ、ランナーはゆっくりと歩き始める。
1万人を超える出場者ゆえ、行列は長く、僕がいる後方ブロックからスタートラインまではずいぶん距離がある。


このレースに向けて、僕は万全の準備をしていた。
練習で走った距離は過去8回のレースを上回る。
それだけではない、今回は筋肉の強化トレーニングもおこなった。

そのメニューは三村仁司さんに作ってもらったもの。
三村仁司さんと言えば、五輪金メダリスト高橋尚子、野口みずき、銀銅メダリスト有森裕子の靴を手がけた職人。

ちなみに「こけちゃいました」のバルセロナ五輪8位谷口浩美の靴もこの人。
給水所で靴を踏まれ、靴が脱げて転倒した谷口。
一瞬このまま裸足で走ろうかと考えたらしいが、思いとどまり、靴を拾いに戻り履き直して再スタートした。
レース後、三村さんに「脱げる靴をつくっちゃいけませんよ」と言ったという。


この時、僕が「長野マラソン」で履いた靴は「三村プレミアム」と言って、三村仁司さんの採寸によるカスタムメイド。
靴だけで言えば、五輪選手と同様の態勢と言うことになる。



万全の準備を裏付けるように、練習ではタイムも出ており、予測タイムは「自己ベストを15分短縮」と出ていた。
長野のコースは若干、手直しが入ったものの4年前に一度走っている。
その時は、生涯最高といえる好レース。
後半に伸びるネガティブスプリットで、27km過ぎからずっと笑って走った。

唯一の不確定要素は天候だったが、当日は「晴れ」気温も10度程度。
もう失敗することを想像するのが難しい。


だが、1人の若者に靴を踏まれて事態は暗転した。
それは後ろからやってきて、先を急ぎ、人垣を縫うように抜いていく男子ランナー。
「ぐにゃり」と音が聞こえそうなくらい、しっかりと踏みつけられた。
一瞬かかとが半分くらい脱げたと思うが、そこは谷口浩美に「脱げる靴をつくっちゃいけませんよ」と言われた三村さん。
脱げない靴に仕上がっていた。


だが、あとで思えばいっそのこと脱げてしまった方がよかった。
脱げなかったために、そのまま走ることができたのだ。
踏まれた右足は締め付けが緩くなり、やがて右足は靴の中で大きく遊び、酷い血マメになった。
(治るのに1年かかった)


一度踏まれると、また踏まれるのではないかと疑心暗鬼になる。
ゆっくり走っていれば、抜かれる時に踏まれる恐れがある。
今日は万全に仕上げている。よし、それならば始めから飛ばすか・・・
もっともやってはいけないと、ここ数年かけて学んで来たことが「靴を踏まれないか」という恐怖で、頭から飛んでしまった。

<後編>へつづく

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