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2016年5月28日 (土)

「23度男」が繰り出すエアコン・ハラスメント

その日、愛知県はこの夏一番の暑さになると、NHKの天気予報が告げていた。
佐藤さんの会社は中区錦の一等地、ビル街のど真ん中にある。
当然、エアコンは完備されており、内勤の佐藤さんにとってみれば、悪評高い「名古屋の暑さ」も事務所に入ってしまえば、違う世界の話しだ。
家に帰ると息子と娘が「暑さぱねぇ」「アイスがうまいでかん」などと言うのを、他人事のように微笑ましく見守っている。


ところが今年、佐藤さんにはいつもと違う夏が訪れていた。
勤務先の会社で、遅まきながらスーパークールビズなるものが始まったのだ。
新年度を迎えると、グループウェアで「GWあけの5月9日より、冷房の温度設定を1度上げる」というニュースが掲示された。

佐藤さんは特段、暑がりではない。
その変更は取るに足らないことのはずだった・・・

5月下旬、GWが明けて冷房の設定が変わってから一ヶ月が過ぎようとしていた。
GWの頃はまだ、冷房そのものが入らない日もあったが、ここに来て、室内でも冷房なくしては耐えられない状況になっている。



朝9時、始業のベルが鳴る。
管理業者がはいっているビルにおいて、冷房は始業よりも1時間程度、早く稼働を始める。
大半の入居企業が9時始業ならば、8時起動という具合だ。

社員はぎゅうぎゅう詰めの桜通線を出て、9時前にやってくる。
その時、社内がヒンヤリとよく冷えている。
「あぁ、社内は涼しいな。ここに居る限り極楽だ」
人の脳は単純で、最初にそう思い込むと、その思い込みは持続する。

しかし、ビル管理会社は9時を過ぎると、段階的にエアコンの設定温度を上げていく。
それは人が気づかないよう、小刻みになめらかに行われる。
一度、涼しいと思い込んだ社員たちは、それに気づかない。

朝9時に冷えていない会社では、社員は
「あつっ!なんだよ冷房入れてんのかよ」
と総務部にどなりこむ。

人の脳は単純なので、その不信感は1日じゅう続く。
「この会社はエアコン代をけちっている」
と思い込んだ社員は、いつもエアコンが冷えているかを気にし始めて、少しでも暑いと感じると、すぐに総務部にクレームを入れるようになる。



各フロアにエアコンのスイッチがあり、独自に温度設定を変えられる会社では、一部の暑がりが「23度」といった極端に低い設定にしてしまう。
外回りをする社員がいる職場では、特にそうなり勝ちだ。
しかしその傍らでは、寒さに弱い内勤の女性が膝掛けや毛布にくるまって仕事をしている。


「23度」にしてしまう人がエライ人の場合、それはパワハラと呼びたくなるような暴虐な行為だ。
だが「23度男」はエライ人に限らない。
どちらかというと、親に甘やかされて間もない、若造にその傾向が強い。
その場合は、エアコンの虐めだから「エアハラ」とでも呼ぶのだろうか。

暑がりの若造はたいてい太っている。
その若さですでに美意識を放棄したのか
あるいは「節制」という言葉が出てきた国語の授業を寝ていたのか。
それだけ腹に厚い脂肪を巻いていたら、さぞかし暑かろうと同情も起きる。


そして、佐藤さんの苦悩はそんな若造によってもたらされた。

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