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2016年5月16日 (月)

価値観を変える猫

サトウイチロウは埼玉の中堅都市に暮らしている。
妻と子供と3人暮らし
数年前、3人で住むにはちょうどよい間取りと、手頃な価格の分譲マンションが気に入り、通勤は遠くなるがこの地に移り住んだ。

この住居を契約する際、管理組合の取り決めを読んでいて、彼はある文章に目をとめた。
「ペットは小動物1匹まで可」

彼は特に動物が好きでも嫌いでもない。
同僚がパソコンの壁紙を愛犬にしていれば「かわいいですね」と共感を寄せるし、SNSで知人の女性がネコに入れあげた投稿をしていても「いいね」はする。
その程度だ。

自分が飼うつもりはないが、小動物ならば、さほど迷惑を被ることはないだろう。
彼はそう独りごちて、一瞬でその文章から目をそらした。


それから5年。
特に可も無く不可も無い新居暮らしが続いていたある日。

朝起きて着替えていると、ウ゛ー、ゴロにゃーごという声が聞こえてきた。
彼の部屋はマンションの6階部分。
野良猫が階段を上ってきて鳴くとは思えない。
窓を開けようとすると、その声は止んだ。


数日後、彼はその声の正体を知る。
休日の午後、近くを散歩して帰ってきた時、家の前にさしかかった所で彼は何かの物体に蹴躓きそうになった。

彼が慌ててその物体を乗り越えると、それはけだるそうに隣戸のわずかに空いた隙間から、中に入っていった。

隣の飼い猫だった。
そこらじゅうを徘徊しないよう、首にリードが付けられていて、その長さはちょうどサトウさんの寝室前の廊下あたりに届く。


その日から、彼は朝に夕に、隣猫のごろにゃーごに悩まされることになった。
マンションの廊下といえば、共用部分である。
たとえ「ペットは小動物1匹まで可」という取り決めがあったとしても、それは専有部分内に限られるというのが常識だ。

共用部の廊下にリードでつないだペットが寝転んでいるという状況に、彼は戸惑った。
何度か、隣の住人に「鳴き声がうるさいのでリードを短くしてもらえませんか」と言おうと思ったらしい。
でも彼はいまだにそれが言えない。

隣人に対して、自分が迷惑しているということをそれとなく伝える手段はないか?
それなりに小さなアクションはしてみたらしいが、廊下猫はつづいているという。


角度を変えた見方をすることで、新しい事に気が付く。
そして、事態は動き出す。
彼は今、新しい見方が降りてくることを待つことにしたという。


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