バドミントン 2人の少女
その少女に出会ったのは日曜日の夕方、近くのコンビニまでアイスを買いに行った帰りだった。
紫外線情報をにらんでいるうちに、外出し損なった初夏の休日。
気分転換に行く先は、コンビニくらいだ。
近くに気軽に立ち寄れる喫茶店でもあればよいのだが、少なくとも徒歩圏内にはない。
アイスが溶けるほどの距離ではない。
サンダルをぺたぺたといわせながら、青く澄んだ空に浮かぶ白い雲をみて、ささやかな幸せを言い聞かせつつ、ゆっくりと歩いていく。
かすかにほおに当たる風が心地よい。
空から目を落としたところに宙を舞うシャトルが見えた。
宇宙船ではない
バドミントンの羽根だ。
都会の子供たちは道路で遊ぶ。
(田舎もそうだろうが)
ここは滅多に車が通らない。
年の頃、小学2年生くらいの女の子が2人。
道路沿いの大きなマンションに住んでいるのだろう。
マンションの玄関を出た路上で、バドミントンをしている。
子どものすることだから、ラリーは続かない。
サーブをした女の子、もう1人が打ち返したシャトルはマンションの植え込みの杉の木に乗った。
(杉だと確かめたわけではない)
僕は役に立ちたいと思った。
子どもの頃、バドミントンをしていてよく羽根が屋根の雨樋に引っかかった。
そんな時、中学生の兄ちゃんが物干し竿を操って、はたき落としてくれた。
とても嬉しかった。
杉の木は幸い、僕が手を伸ばせば届くほどの高さ。
2人の少女は、ラケットを目一杯に伸ばして、跳び上がって取ろうとするのだが届かない。
彼女たちには悪いけど、僕が行くまで落ちないで欲しいと願った。
コンビニ袋を抱えた僕は杉の木に近寄る。
「取ろうか?」
と声をかけるのと同時、1人の女の子が見上げて言う「引っかかっちゃったんです」
いや、それは見てたから知ってるけどね。
それよりも、今時のギャル(死語か)のような言いっぷりが意外だった。
軽くジャンプしてはたき落とすとかっこいいかな
と値踏みしていたが、シャトルは手を伸ばした僕の左手がつかみ取れる場所にあった。
つかみとって、少女に渡す
「ありがとうございます!」
2人の嬌声がそろう
どういたしまして・・
そこで「気をつけて遊ぶんだよ」とか「今時バドミントンなんて珍しいね」などと、求められても居ないご近所コミュニケーションは取らないで、何事もなかったように足早に立ち去る。
軽く微笑んで去ろうとしたところに、マンションから美人のお母さんが出てきて・・
というようなことは何もなかった。
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