早口が来ている
僕はその日、プレゼンのスピーカーだった。
音が出るアレではない。話し手、説明者である。
2000年代に入ってから5年ほど、IT業者の営業は皆、早口だった。
カンファレンスでは、営業担当者がパワーポイントを投影しながら、そのスライドには書いていないことを機関銃のように話していた。
書いていないことを喋られるとわからないな。。
彼らの説明を聞きながら、そう感じていた。
しかも、書いていないことを話すということは、その部分はスピーカーのフリーハンド。
その場で考えたアドリブ、その人の思い入れ、知識のひけらかし。
何様でもない平凡なサラリーマンの「どや顔」を見ながら聞く、増幅された言葉は不快だ。
気がつくと機関銃のように話す時代は終わっていた。
代わりに訪れたのは「ゆっくり話した方がいい」伝説の時代である。
それは2016年に入ってからも続いていた。
今回、プレゼンの準備をしている時、仲間に向かって僕はこう提案した。
分量は多いし、時間は限られている。ある程度、早口で話しても「お、わかっているな」という印象を与えられるんじゃないかな?
すると異口同音に「早口はだめですよ」「何言ってるのかわからないって言われます」という反応が返ってきた。
しかし、こうした「早口NG伝説信奉者」の方が、いつもは僕よりも早口だったりするのである。
僕は早口の方がよいとは言わないが、一概に早口がダメだとは思っていない。
「早口がダメ」なのは「話が下手」な人の場合である。
「話が上手い」人の早口は、決して悪くない。
ここで「話が上手い・下手」と言ったが、これは技巧の問題ではない。
確かに話の途中に「え~」「あのぉ」といった口癖を挟むのはダメだが、話の上手・下手を分けているものは違う。
話が上手ということは、こういうことだ。
1.語彙が豊富(脳内に聞き手の琴線に触れる表現が詰まっている)
2.話の内容に精通している(いわゆるその道のプロ)
3.身の丈で生きている(自らを大きく見せようとしない)
語彙が貧困な人の話は感動ポイントがない。
人は予想外の言葉に、突き動かされる。
「費用対効果とかの検証が可能です」
などと腐った言葉をいくつも並べられると興ざめする。
アマチュアはものごを複雑にする
プロこそがものごとをシンプルにできる
アマチュアの話は要点以外の部分が長い。
プレゼンは「結・起承転結」で行くべきところが「起承転転転転転」となっていて、結論がよくわからない。
自分(の会社)を現実より大きく見せようとすると、やたらと「●●商事さんも採用しています」といった「他の人が使っているんだから、お前も使え」といった文脈が増える。
そんなことは、会社のホームページに書いてあるので、既にわかっている。
「聞き手(お客さん)は自分たちのことを知らないだろうから、教えなければいけない」という見識は、ネット社会においては過去の遺物だ。
2時間という限られた時間に通常の2倍にあたる400ページの台本を詰め込んだ「シン・ゴジラ」を観て、多くの人が痛快に感じている。
それは「話が上手」なポイントがしっかりとシナリオに練り込まれているからだ。
相変わらず思考停止した一部の人たちが「台詞が多くて説明口調だ」と非難している。
2016年「早口」が来ている。
話が上手な人は、遠慮なく早口で話せばよい。
話し終えたあと、納得した聞き手がたたずむ会場に訪れるのは「沈黙」である。
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