お斎でご輪番さんに褒められる
お斎の会場は親戚が経営している鮮魚の店。
なにを食べても美味しいので、芸能人の来訪が多い店である。
その親戚を前に「ささやかではございますが・・」というのは、なんだかおかしいのでいつも「・・といいたいところですが、今日も****(店名)の美味しい食事をしばしお楽しみください」と挨拶し、親戚一堂にっこり。というのがお約束だ。
遠くから来る親戚も、この店の料理を楽しみにしており、この料理は遠路を旅する動機付けの一つになっている。
しかし、僕はイカやタコ、エビカニの甲殻類、そして貝類が食べられない。
その原因は、中学一年生に遡る。
当時住んでいた五島列島であわびにあたり、顔がエレファントマンみたいに腫れ上がったのだ。
学校の洗面所で鏡をのぞきこむ。
左側半分だけがいびつに腫れ上がり、自分でも凝視できないほどだ。
あぁ、このままこの顔だったら、放生会(博多です)の見世物小屋で「蛇女」と共演するくらいしか就職先はないな・・とは思わなかったが、少なくとも、女の子にもてるとか、そういう道は閉ざされたなと暗澹たる気持ちになった。
幸い、腫れは数日で引いたのだが、その後ぱったりと、甲殻類が食べられなくなった。
その話は、この親戚の前でも何回かしていると思うのだが、その都度、皆が真剣に聞いてくれるので「あれ?まだ話してないのかな、まぁいいや。聞いてるから」と思いながら話している。
お斎の長いテーブルは右と左の2グループに分かれ、2つの話題が同時進行している。
その真ん中にいるのがご輪番さんと僕。
どちらの話題にも、満遍なく耳を傾けるダブル・ポジティブ・リスニングという高度な技を駆使していたら、ご輪番さんが口を開いた。
「今日の挨拶ですが、こんなスマートな日本語を使う人がいるのかと驚きました」
司会者が式次第を誤り、導師が退場しないまま僕が話した遺族代表挨拶を指している。
「浄土に還るとさらりと言われたけれど、ふつうの人ならば天国に行くとか言うものです」
周囲の人は二手に分かれて盛り上がっている最中なので、この話を聞いていた人はほとんど居ない。
とても晴れがましい気持ちにさせていただいた。
それでよかったと思う。
司会者が次第を誤ったのか、それとも、それが場の空気を読んだものだったのか、いずれにせよ、そのおかげでご輪番さんからありがたいお褒めの言葉を頂戴した。
僕は、喪主という仕事をきちんとやり遂げたという確信を持つことができた。
司会者にお礼状は書かなかったけれど。
遠くから来た親戚の帰り旅を考え、2時間弱でお開き
それぞれが最寄りの交通機関にて、それぞれの場所へ帰っていった。
二日間を休むと、その翌週から大変な手続きが待ち構えていた。
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