郷に入れば郷に従え
その日、僕は原宿の駅に降り立っていた。
週末でもないのに、駅を出たあたりからあらゆる歩道が人で溢れている。
いつの間に、ここは外国になったのだろう・・
そこには割とよく聞く、ある一定の語尾を持った外国語で話す人たち。
彼女らは声が大きいのでやたらと目につく。
郷に入れば郷に従え
というのは、郷ひろみのファンクラブに入ったら、先輩を敬い、グッズをたくさん買えという格言だが、この格言は日本だけのもののようだ。
外国から来た人、特に海を隔ててすぐの所から来た人たちの国には、そういう言葉も文化もないと見受けられる。
僕にとって、原宿とは靴を買う街であり、今日もそのご多分に漏れない。
一直線に(1度左折したけど)ナイキの店に入り、まずは一階の壁際に並んだ靴をチェック。
ここにはないな・・
恐らく、SCラインや復刻の色違いモデルは2階である。
かつて、FOAMPOSITEイエローは2階にあったし、AIR MAX 95 ESSENTIALは3階にあった。
せっかく来たのだから一応、ナイキフリーとフライニットもチェック。
この両者のいいところはベロがなくて、足入れのストレスが小さいことなのだが、最近のモデルはどれもベロ付きのものばかり。
ベロがないと機能に問題があるのだろうか。
僕にはそうとは思えないので、最近の設計には疑問が消えない。
二階に上がると少し客層が変わる。
一階にいた冷やかしの高校生や、お調子ものの大学生が消えて、真剣に走る靴を探しにきた女性や、コーディネートはこーでねーととフィッティングしている若者ばかり。
しかし、そこにも「エアマックス 96 XX」「エアマックス 96 II XX」はない。
三階に上がると大幅に客層が変わった。
そこは、長居したくない雰囲気だ。
おばあちゃんみたいに、椅子の上に正座している女。
靴棚に向かってカシャカシャとシャッターを切る若造。
靴を手に大声でわめいている男女。
異国語だから、正確な意味はわからないが、およそどういう類いのことを言い合っているかは想像がつく。
ようやく、手が空いた店員にエアマックス96、97の復刻版が出ていると思うが、ここにはないのですかと尋ねる。
店員によると、当初からここでは扱いがないという。
何処にあるんですかね?と丁重に尋ねると、あるとしたら「近隣の**」と「南青山の**」あたりだと教えてくれた。
つづいて近隣の**を巡回したが
「うちには入ってないです。今はプレ値で3から5ですね」
とのご意見だった。
夜のとばりが降りた喧噪の中、再び原宿の駅へ戻る。
両手はてぶら。
この街に来て、手ぶらで帰るのはいつ以来だろうか。
こんなことならば、電話して在庫を確認してからにすればよかったと一瞬思ったが、この無駄足を清々しく思っている自分に気づいた。
たまには手に入らないものがあってもいい。
品切れしていなければ、なかなか物欲は「断念」できないものだ。
いつか、本当に必要なモノであれば、また何処かで出会うはずだ。
帰宅して荷物を置くとすぐさま、パソコンを開く。
ナイキshopへ行き「ナイキ エア マックス 96 XX SP」を検索
よし、まだ売っている。
「カートに入れる」をクリックしたが押せない。
そうか「サイズ」をクリックだな。
なんと・・26.5以下しか残っていない
昨日はそこまで確認しなかったが、既に売れ筋のサイズは終わっていたのだ。
そして、Webのプレ値ショップでは、確かに3から5の値段がついていた。
ナイキの靴にプレ値がつくなんて、久しぶりに見た。
やはり「初復刻」を待っていたファンがそれだけいるということだ。
2017年夏の靴を手に入れるのは、2017SS、LSを見てからでも遅くはない。
僕はそう気持ちを切り替えた。
それならば、鬼にも笑われないで済む。
それならば、鬼にも笑われないで済む。
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