スマホゲームをするために個室トイレに通うおじさん
タベイさんは定年間近のサラリーマン。
その会社での余生を閑職で過ごしている。
昔でいうならば「窓際族」だ。
だが、時は流れ今や陽の当たる窓際に閑職者を置く企業はない。
そこは、まさに日の当たる人材、役職者の場所。
彼の居場所はというと、日当たりの悪い部屋の隅っこ。
かつて、彼はその場所がお気に入りだった。
ゲームをして遊んでいても、周りにばれないからだ。
昔は現場の第一線で指揮を執り、意気揚々としていた彼だが、今や9時から5時までが埋まるだけの仕事がない。
要するに、暇で暇でしかたない。
たばこ休憩をとり、雑談を多めにして、ゆっくり仕事を進める。
それでも3時頃には、まったくすることがなくなってしまう。
そこで彼はWindowsパソコンにプレインストールされているゲームを立ち上げる。
トランプのカードをめくるだけのごくシンプルなものだが、幼少から大人になるまでコンピューターやスマホのない時代に育った彼にとっては、それでも十分にハイテクなギミックに映る。
古き良き時代ならば、彼の安住は打ち破られなかった。
ところが時代は新しく悪しき時代に変わった。
効率が極限まで追い求められ、非効率なものは「見える化」という気味悪い言葉で、白日の下にさらされる。
可視化と言えばいいものを、わざわざ「見える」という幼稚な言葉で表現することで、その強圧を包み隠している。タベイさんは鼻持ちならないと感じていた。
勤務時間中のコンピューターの挙動はすべて、監視システムで一元管理され、やがてタベイさんのコンピューターでは就業中の30%以上が、ゲームに充てられていることが「見える化」された。
その日以来、彼は主戦場をパソコンからスマホへと移した。
元々、ガラケーしか持っていなかったのだが「オレもそろそろ始めようかな」と告げたところ、アナログな亭主の珍しい申し出に、タベイさんの奥さんは即座に賛同したという。
公用のスマホはMDMという技術で、その挙動がすべて会社から監視されている。
だが私用スマホならば、その限りではない。
いつものように、今日も暇になり、彼はスマホをポケットに偲ばせ、いつもの場所に向かった。
その行く先は個室トイレだ。
いくら私用スマホが監視されていないとはいえ、デスクでゲームをやっていれば、再び咎められることは火を見るよりも明らか。
トイレの個室に逃げ込めば、さすがに監視カメラはない。
15:00
5つあるトイレの個室は4つが塞がっている。
タベイさんは誰かにとられてはならじと、慌てて部屋にカラダを滑り込ませて、ドアをロックした。
ドアには数日前から銀色の物体が取り付けられていた。
つづく
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