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2017年3月23日 (木)

該当をカクトウと読む「カクトウ男」

サワキ君はいけ好かない人だ
そして髪が長い
知識は確かで信頼されており、そのクールな人となりが女性に人気である。
だが日本語が苦手で、言っていることがわかりづらい。


その日、僕らは集まって資料を評価していた。
資料は皆で作ったものだが、司会者を務めるサワキ君が、それを読み上げている。

概ね、人は自分以外の人が考えたことに関心がない。
自分が評価されることや、キーマンとして扱われるか否かには関心があるのだが、他人が作った資料。その資料の先にいる人々には興味がないのだ。
従って、誰からもつっこまれることなく、サワキ君が淡々と読み進めている。


「このケースは、非常事態にかくとうします」
一瞬、僕の目の前の空気が動揺した。
誰も感じていない震度1の地震を、自分だけが捉えたような感覚だ

格闘?
非常事態が格闘するのか?
するわけないよね。

彼が読み上げている資料の項番を追う。
そこには「該当」とあった。


確かに、該のつくり「亥」が核ミサイルの「核」と同じだ。
サワキ君はいつの頃からか「該」はカクと読むものと思い込んだのだろう。
入社試験に入念な漢字テストがない限り、企業には「漢字が読めない社員」が大量に入ってくる。


プレゼンの場合、プレゼンテーションのパワポは自分で作るので、自分が読めない幹事は使わない。
「カクトウ」と入力して「該当」を出そうとしてもATOKは応えてくれないので、そこで諦めるはずだ。

他人の資料を読む場合に限り「漢字を読む力」が試される。
ただ、たいていの社員は、人前で他人が作った資料を読み上げる機会はないので、漢字を読めないことがばれることはない。


作った資料を共有フォルダーに置くことを「格納しました」というのは「格納男」だが、該当を「カクトウ」と読む「カクトウ男」は1人ではない。
年齢的には30代から50代まで幅広く存在している。



ある日、コヤナギさんが100人の聴衆を前に、演台に足っていた。
研修の講師を務めているのである。
30分間の講義が終わり、その定着度合いをはかる小テストが配られた。

これは違反行為に該当するか、しないか?
二者択一の問題が5つ。

5分の解答時間が与えられた後、コヤナギさんがスクリーンに投影しながら答え合わせをしていく。


「問1、はいこれは違反行為にカクトウします」

え゛
さっきまで眠気と格闘していたのが、一気に醒める。

「問2、これは違反行為にカクトウしません」

どうやら、いいまつがいではない。
本気モードだ
しかし、この大人数が聞いている前で講師が「漢字読めない男」では洒落にならない。

「問3、これは違反行為にカクトウします。ちょっと易しかったですかね」

だったら、易しい漢字も読んで欲しい

「問4、これは違反行為にカクトウしません」

僕は首を動かさず、視線だけを泳がせ当たりの反応を覗う。
だが、動揺した空気は微塵もない。
漢字の読み間違いは指摘しない。これが大人のたしなみということなのだろう。


ついに、最後まで「カクトウしました」と自信を持って言い切り、コヤナギさんは壇上から降りていった。
誰もがそんな彼に拍手を送る。
世間の風は暖かい。
日本はいい国だと思う。


「ちょっと、早口だったかな」
舞台の袖で、コヤナギさんがスタッフの男に問いかけている。
「いやいや、ばっちりですよ」
そのスタッフも、カクトウ男なのかも知れない。

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