散髪屋の10分トークでこの夏を総括する
床屋にはだいたい6週間で行くことにしている。
ちょっと後ろが伸びてきたなと想う頃が、ちょうどその頃だからだ。
だが、今日はいつもより1週多い7週間
つくばマラソンまでの残り週数を計算すると、一週遅らせるとちょうどよいタイミングになるからだ。
マラソン前は直前に散髪すると風邪を引くリスクがあるので、いつも2週か3週前に短くする。
仕事帰りの夕方、駅前にある格安カットの店は空いていた。
日中の時間は「サービスタイム」
さらに安いため、無職の人たちや学生は皆、早めに訪れる。
仕事帰りで行く頃には、ちょうど「サービスタイム」の客が仕上げに入っている頃で、ほとんど待たずに席に着くことができる。
その店は都内に数店舗を構えるチェーン店だが、美容師はずっと前からいるおばちゃん達だ。
チェーン店というと、そのまま「こだわりのラーメン屋」で通用するんじゃないか?というがたいがいいおやじというイメージだが、ここはすべておばちゃん、とてもアットホームだ。
以前、沢口靖子を30歳若くしたような美容師がいたことがあるが、僕はその人が苦手だった。
散髪というのはハサミやバリカンを当てることを容認する行為なので、できればリラックスして臨みたいが、その人が当たるととても緊張したのだ。
ある時「これくらいでいいですか?」と沢口に確認を求められ、もうちょっと切ってもらっていいですか?と丁重にお願いしたところ「はっ、けっこう短いですよ」と反論されて、要望を取り下げたことがあった。
「今日あたり寒いくらいですね」
散髪の席に着くと僕はいつも、目をつぶっているのだが、おばちゃんは付属サービスでもあるかのように、世間話を振ってくる。
そうですね
寝たふりをするのは大人げないので、さらに話題が膨らまぬよう、最低限の回答をする。
「ついこないだまで、あんなに暑かったんですけどね」
だいたいは、ここで会話は終わり、散髪が終わるまでのおよそ10分間、粛々と作業が進められる。
だが、今日は違った。
「今年は蚊が少なかったですね」
そうですね
「暑いのはいやだけど、蚊に刺されないのは助かりましたよ」
確かにそうですね
僕は目を閉じたまま、口元にアルカイックスマイルを浮かべて、敵意はないことを表明する。
「セミもあまり鳴かなかったですよね」
・・・
ここで答えに窮した
いや、セミは鳴いていただろう?
僕は確かに、おざなりな相づちは打っているが、事実と異なることを言葉にできない。
正直者だから。
そうですか?
つい、疑問形を使ってしまった。
メールで相手の返事が欲しい時に使う常套手段である「疑問形」を、もっとも使ってはいけない場面で繰り出してしまった。
「そういえば、必死に鳴いてましたよね」
いや、セミはいつものセミで、鳴き声が必死だと、僕はこの夏、一度も想わなかった。
今年は家の前で力尽きて、ひっくり返ってるセミを、何度も見ましたね
つい、ネタを振ってしまった。
「あまり生きられないのにね」
そうですね
でも、ひっくり返っていても、ちょっとつついてやると慌てて反転して飛び立っていくんですよね。短い一生だから、そうしてあとひと頑張りだぞって、2回セミを励ましたんですけど、なんか、ちょっといいことした気分でした。
と言いそうになったが、今度はおばちゃんがスルーしそうなので、やめておいた。
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