転校生の特典
上五島の旅まで一週間
僕は「延期しようか」と思っていた。
憂鬱な気持ちになっていたからだ。
それは上五島の地を40年ぶりに踏むことに対してではない。
旅に対する気持ちが固まらないことに対してだ。
いつもの旅ならば、漠然とではあるが、その旅における「意味づけ」というものがある。
水戸に行くならば「吉方の力を全身で受け止める」ことであり「旅マラソン」ならば「思い出に残るような、いいレースをする」といったことだ。
いつか五島に行きたいというのは、数十年前から思っていた。かつて住んだ町が今どうなっているかを見に行くのは、転校が多かった子ども時代を過ごした者にとって、せめてもの特典のようなもの。
転校そのものには、そんなにいいことはない。
まずは親友ができない。できたと思ってもすぐにお別れ。人は誰しも同じ時間を共有した者と友達になる。転校するとそれが少しずつ、周りよりも短くなる。どこへ行っても中途半端なくらいに。
転校してよかったことと言えば、初対面の人が苦にならないことだ。ただ、これは持って生まれたものかも知れない。
そんな特典のうち、五島は最後まで楽しみにとっておいたスペシャルな特典。そのカードを、こんなに気持ちが固まらないままに切ってしまっていいのか。
しかし、もうすぐそこに五島の陸地がある。
まぁ最低限やりたいのは、昔を懐かしむこと。
それだけで十分だし、それ以上に求めるものが五島にはない。
誰か1人でも、40年前の友達に会えるといいな。
そうした目標を1つ立てることで、あとはリラックス&ポジティブ、つまり自然体で行こうと気持ちを切り替えた。
フェリーターミナルの入口に貼り紙。
「祝世界文化遺産登録 住む人に誇りを、訪れる人に感動を 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 新上五島町 頭ヶ島の集落」
朝から何も食べていないことをおもいだし思い出し、有川うどんと書かれた暖簾をくぐろうとしたが自動ドアが開かない。かすかに開いた隙間から終わりですか?と問いかけると、気さくに「まだいいよ~」とは言ってくれず、あぁもう終わりという返事。この界隈はその日の船が着いてしまうと、さっさと店じまいしてしまうのだった。
僕は思わず、佐野元春の口調で言った
でもまだ2時半だぜ?
有川フェリーターミナルには、ヴィヴィくん、佐世保バーガーに続いてこの日3つめの顔出しボード。写真は「頭ヶ島の集落」にある頭ヶ島天主堂。今日は豊作だ。
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