雑貨店と仮面ライダースナック
かつて「仮面ライダースナック」を買っていた雑貨屋は、普通の民家に変わっていた。
ジャイアンの母親が「このちんぽばくれれ、がはは」と笑っていた店だ。
ちんぽとは赤いウィンナーソーセージのことで、ジャイアンが弁当に持ってくるランチジャーには確かによく赤いウィンナーが入っていた。ウィンナーといえば運動会の弁当でしかお目にかかれぬご馳走だったが、ジャイアンの家はこのあたりでも羽振りがよいようだった。ただ、この雑貨屋で売っているウィンナーはなんだか変な味がして、僕はいつもジャイアンの弁当をみて、あれは本物じゃないと思っていたが、口には出さなかった。子どもの僕にもそれくらいの良識は備わっていたのだ。
当時まだコンビニなるものは佐世保にもない。
浦桑にはスーパーさえない。週末になると僕の家族はクルマに乗って青方のスーパーへ買い物に行った。
だから、僕にとって青方(あおかた)はうきうきする場所だ。
雑貨屋というのは、食料、日用品を幅広く扱う店。今はその役割をコンビニが担っている。
ある時、この雑貨屋は家事で全焼してしまった。僕にとって貴重な買い物店が閉まっていることは、ライダーカード集めに支障をきたした。
なぜならば、母から「仮面ライダースナック購入禁止令」が出ていたからだ。
当時「仮面ライダースナック(20円)」をカード蒐集のために購入して、お菓子を捨ててしまう風潮があり、問題になっていた。インターネットはなかったので、全国的にどの程度問題になっているかはわからないが、少なくとも人口1万人弱の新魚目町でも問題になっていた。
買うことが禁止されているので、家族と買い物に行った時には泣く泣く見送るしかない。なにせ田舎では「仮面ライダースナック」の入荷はとても少なく、目の前にある時に買っておかないと、次はいつ買えるかわからなかったのだ。
ある日、ゲットした「仮面ライダースナック」を自転車の前かごに入れ、ほくほく顔で自転車を漕いでいると、向こうから父と母が乗ったクルマが来たことがある。僕に気づいて手を振る両親。僕は必死に前かごに体をかぶせて、笑顔を作った。幸い、その晩、掟を破ったことについてのお沙汰はなかったので、この子は何をしているのだろうと思ったかも知れない。
再び雑貨店が新装なると、僕は早速お店をのぞいた。あいにく「仮面ライダースナック」の入荷はなかったが、ご祝儀がてら30円のかっぱえびせんを買った。するとおばちゃんが「これサービス」と言って、かっぱえびせんの30円袋をもう1つ持たせて暮れた。
開店祝いのえびせんを開けると、焼け焦げた煙の匂いがした。
開店祝いのえびせんを開けると、焼け焦げた煙の匂いがした。
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