マラソン大会必勝の戦略
マラソン大会の日。僕は一発やってやろう!と密かに意気込んでいた。もちろん、ダメだった時に恥ずかしいので、そんなことはおくびにも出さない。
小学校の頃から今日まで運動会の徒競走(短距離)で最下位以外を走った記憶がない。何回かブービーはあったかも知れないが。
だが、体育の授業で計る長距離(といっても1500m)のタイムはそれほど悪くなかった。もしかすると、戦術によっては上位に食い込めるのではないか。
出場するのは1~3年の男子。そのうち陸上部の連中は「駅伝の部」に選抜されていて居ない。
およそ100人の出走。上位10位くらいに食い込めれば、クラスをあっと言わせることができる・・
「motoはテストの点だけかと思ったら、足も速いっちゃね」
そんな賞賛の声を妄想しながら、僕には一つの秘策があった。
新魚目町立魚目中学校マラソン大会当日
僕ら100人の魚中男子は校庭のトラックに集合している。
いつもならば、控えめに後方に位置取りするところだが、この日は違う。スタートライン付近最も大外にスペースを見つけ、そこに潜り込む。
朝礼台の上で教頭先生がピストルを打ち、僕らは一斉にスタートする。
40年後の今日、校庭に入れないことはないが、遠慮して校門からのスタートを切る。
教頭による号砲と共に、僕は一気にスパートした
ラストではなく「スタートスパート」だ。
なぜこんなことを思いついたのかは思い出せないのだが、前夜、1人で練った秘策はこうだ。
まず、スタートで一気に差をつける。
その後は通常のペースで走る。
始めに差がついていると、後ろは諦めて追ってこない。
結局、最初についた差を保ってゴールできる。
グラウンドから坂を上って校門を左折。県道に出る。
なんと2位だ。前を往くのは3年生男子。
こんなにうまく行くとは思っていなかったので、ちょっと面食らう。だからといって後ろを待つわけにもいかないので、とりあえず、このまま行くことにするが、えらいことになってしまったなとちょっと後悔している。
少しずつ抜くのならばいいけど、徐々に抜かれるのはかっこ悪いし、精神的によくない。
丸尾の県道は右側が崖になっていて、爽やかな風を受けるが、さほど強風ではない。ジョギングには絶好の景色のよい海辺のコース。だが、もちろん30度を超える五島で走っているのは僕だけだ。
丸尾の海風を受けて道路の右側を走る。
白バイの先導はないけれど、道路は封鎖されているようで、自動車はどちらからもやってこない。
今考えれば、中学校のマラソン大会くらいで幹線道路を封鎖するなんて、新魚目町はえらいことをやるものだ。
三年生の背中を追っていると、少しずつ距離が縮まってきた。
おいおい、優勝もありかよ・・
そう思った時、後ろから猛然としたスピードで人影が割って入った。陸上部の長距離エース(三年生)だった。
先を往く三年生に向かって「おいがひっぱるけん、ついてこい」すると、落ちかけていた三年生のペースがみるみる上がっていく。
おいおい、そんなんありかよ
これが、陸連主催の競技ならば、即座に失格となるところだが、魚目中の大会にそんなルールは存在しない。
なんでも有りなのだ。
ずるいなぁと思いながらも、一位を抜かないで済んでほっとしていた。そういうところが僕の甘いところだ。
似首の折り返しが中間点。
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