しゅっしゅっしゅっする男、しゅーしゅーする女
しゅっしゅっしゅっ
突然、場違いな音が聞こえてきた
ただ、それが「エアーダスター」の音だと言うことは経験上わかる
冬場、気温が低い場所に保管していると、なかなか空気が出てくれなくて、まさか爆発したりしないよな?と考えながら、缶をこすった経験が誰にもあると思う。
なぜ、今それが?
今は年末の大掃除の時期でもないのに
見上げると町田君がパソコンのキーボードに向かって
しゅっしゅっしゅっ
小刻みに強くボタンを押し込んでいる
彼は脇目も振らず真剣で、その行為の正当性を微塵も疑っていない
彼は脇目も振らず真剣で、その行為の正当性を微塵も疑っていない
僕は思わず顔をしかめる
キーボードのキーの隙間には無数のちりゴミが沈んでいる
それが限界を超えたから、町田君は清掃を始めたのだろう
今ここでカーテンを引き部屋を真っ暗にして、彼に向かって特殊な光線を当てれば、膨大なちりゴミが空気中に拡散し、やがて空調の気流に乗って僕らを襲うことが、手に取るようにわかるだろう
それ、埃が周囲に舞って迷惑だよ
僕がそう言うと、きっと彼は気を悪くするだろう
「どこがいけないんですか?」
「なにも悪いことしていませんけど」
ふくれっ面の顔が目に浮かぶ
素直に「あ、すみません。気がつきませんでした」というような人ならば、しゅっしゅっする時にティッシュなどで噴出口のそばを押さえるといった配慮をする
それができないからこそ、辺り構わずしゅっしゅっしゅっなのだ
僕は寛大な世間の一員として、これを気にせず、見過ごし、忘れることが最善の策と思われた
後日、高田さんが町田君の元へやってきた
彼女はリーダー的な存在で、おせっかいなくらい、よく気がきく人と目されている
「町田さん、しゅーってやつ貸してくれる?」
「私物所持品情報登録制度」はないので、どこかにその情報が載っているわけではない
町田君がそれを所持しているという噂を誰かから聞きつけたのだろう
あるいは、しゅっしゅっしゅっの目撃が記憶の底に沈んでいたのかも知れない
快く「エアーダスター」を貸し出す町田君
そもそも、空気に貸し借りはムリだと思うが、お互いそんな野暮なことは言わない
席に戻った高田さん、しゅーっ しゅーっと始めた
かなりの長押しだ
町田君の私用品、戻ってくる頃には、ほとんど空っぽなのではないか?
と心配になるほど、噴きまくっている
町田君も内心、気が気ではないだろう
高田さんのとなりに座っている佐藤さんは潔癖症として知られている
僕がそうだったように、彼女も眉間にしわを寄せている
高田さんそれには気づかず、広範囲にしゅーっしゅーっ
仕舞いにはとなりの佐藤さんの方に向けて吹き始めた
その先、なにが起きたかは、見なかったことにしよう
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