マリちゃんの自転車 駐輪場で歪んでいた自転車
マリちゃんは最近、職場の近くのアパートに引っ越したらしい。
それまでは残業してから電車に乗って帰ると、駅前のスーパーが既に閉まっていて、割高なコンビニで買い物をしなければならない。それが、料理好きな彼女にとっては不満だったらしい。
野菜をあれこれと手に取って品定めして、より新鮮なものを安く買うというのが楽しみだからだ。
そして、事件は引っ越した翌日に起きた。
関東は記録的な長梅雨となり、七月も半ばというのに、その日は朝から地面をたたきつけるような雨。
あぁこれじゃ野菜の値段あがっちゃうな
そう思いつつ、雨の中傘をさして走るのは危険だと思い、自転車で駅まで行くのは見送った。
その雨も午後には小降りになってきた。
よし、今日は新しい最寄り駅で、目を付けていたスーパーで初の買い物だ。
移り住んだ町は、閑静な住宅街。
TSUTAYAはないしスタバもないが、近くには公園が多い。
「肩肘張らずに暮らせる町」というのは、自分の中ではポイントが高い。
あのスーパー、野菜の品揃えはどうなんだろう?値段はどうかな、もしかしたら、この雨続きで市場価格全体が高くなっていて、参考にならないかな・・
そんなことを思っていると、いつもならば憂鬱な雨もサンバのリズムに聞こえるマリちゃんだった。
17時を回ると「今日は早いね?」と同僚に茶化されながら、家路についた。現代社会ではそこで「今日はデート?」といったツッコミは入らない。
50代のベテラン社員たちは「言いたいことが何も言えない時代になった」と嘆いているが、そんなこと、そもそも言っていたのかとこっちが嘆きたい。
駅前のスーパーは、高齢者の姿が目に付いた。
「この駅、こんなに年齢層高いのかな?」
そう思ったが、それは早とちりだと後にわかることになる。
引っ越したばかりで冷蔵庫が空っぽなので、ついつい多めに野菜と生鮮品を買った。レジでお金を払った後で、その日は自転車がなく、この荷物をぶら下げて歩かなければならないことを思い出し、少し後悔した。
それでも、新しい町、新しいスーパー、これから帰る新居を思うと悪い気はしない。時々、マイバッグを右手、左手と持ち帰りながら、こんな散歩ならば、雨の日もいいな・・
そんな、幸せな気分は、直後に暗転する。
アパートの入口には「カメラ作動中」の札。
門扉を開けると、その先から監視カメラがこちらを見据えている。カメラは防犯の抑止力になる。悪い人もカメラがある場所では襟を正す。防犯カメラ完備というのが、この物件の決め手だった。
自転車置き場の中に自分の自転車を探す。
サドルが濡れているかな?
そう思った時、視界に歪んだ光景が飛び込んできた。
目の錯覚、もしかして私、疲れてる?
そうではないということは、すぐにわかった。
歪んでいるのは自転車そのものだった。
つづく
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