マリちゃんの自転車 白昼、防犯カメラの前で行われた犯行
新しいアパートに引っ越してきた翌日、マリちゃんの自転車は無残に歪んでいた。
後輪のセンタースタンドで自立している自転車は、本来ならば地面と垂直の角度を成しているはずだが、今目の前にある彼女の自転車は左側に傾いでいる。
あえて角度で表現するならば、20度、いや25度くらいか。
しかし、前輪は輪留めにしっかりはまっている。
いったい、どうなっているの?
とりあえず、一回冷静になろう。
こんなところで立ち止まっているところを誰かに見られたら、状況を説明しなくてはならなくなる。
ひとまず部屋に上がり、野菜や生鮮品を冷蔵庫に仕舞う。
戸締まりを確認して、もう1度自転車置き場に戻る。
自転車は前輪が「紅茶で用済みになったレモン」のように、不規則に歪んでいた。
朝から降り続いた雨で、車体の全体が濡れそぼっている。
右隣りには真新しい自転車。サドルが濡れていないところをみると、帰ってきたばかりか・・
マリちゃんはコナン君のファンで、つい、現状を分析してしまうのだった。
左隣りは空いている。
確か、昨日停めた時には、左隣りにも自転車が停まっていた。
マリちゃんは、そこに恐怖を感じないわけにはいかなかった。
左の人が怪しいな・・
アパートには駐輪場のルールがあった。
希望者は事前に使用を申告する。
大家さんから不動産屋経由で指定される番号の場所に停める。
駐輪した時に視認できる位置、すなわち、自転車の後輪泥よけには交付されたステッカーを貼らなければならない。
ところが、手違いがあり、そのステッカーがまだ届いていなかったのだ。不動産屋で部屋の鍵を受け取る際「**番に停めてください。ステッカーは大家さんから届き次第、ポストに投函しておきます」と言われていた。
決して膨らませたいわけではないが、マリちゃんの脳内イメージは否が応でも膨らみを見せる。
「あれ?この見慣れない自転車だな。ステッカーも貼ってないし。そういえば、最近は盗んだ自転車をこうして自転車置き場に乗り捨てて行くヤツがいると聞いたぞ。あるいは、住人のところに遊びに来たヤツが勝手に停めているのか。いずれにせよルール違反だ。こうしてやる!えい!」
そんな軽い気持ちで蹴飛ばしてみたところ、自転車はぐにゃりと曲がってしまった。
「やべ、曲がっちゃったよ。まぁでも無断だったらいいか。ステッカーだって貼ってないし」
あぁ、大家さんがステッカーをきちんと手配してくれていたら・・
そこまでイメージを膨らませた名探偵マリちゃん、しかし、腑に落ちない点があった。
果たして、大の大人が防犯カメラがあるとわかってる場所で、自転車を壊したりするものだろうか?
住民ならば、誰もがこの場所は24時間、防犯カメラで撮影されていることがわかっている。
「映像は遠隔地のサーバーに保管されており、何らかの事案が発生した際には、過去の映像を閲覧することができる」
マリちゃんも下見に着た時に、そう説明を受けた。
だとしたら、外部犯行か?
しかし、外部から来た者が、ピンポイントで昨日置いたばかりの私の自転車だけを壊して逃げるというのは、常識的な捜査セオリーから外れている。
ここは内部犯行を疑うのが本筋だろう。
つづく
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