一ヶ月前に買った一ヶ月前の切符で乗車する謎の老婆
あまりの暑さと足の痛みで天神散策を30分早めに打ち切った僕を待っていたのは、蒸し暑い博多駅のホームで30分「特急みどり」の到着を待つことだった。
あいにく使用列車の到着が遅れ、出発間際に入線してきたみどりはいつもの清掃を省いて僕らを車内に招き入れた。
指定席の軟券を見ながら、JR九州のウェブサイトで1ヵ月前に予約しておいた窓際の座席に陣取る。
これであとは終点「佐世保」まで寝てよし、起きてよし、本読んでよし。気ままな二時間の列車旅だ。
しかし、そうは問屋が下ろさなかった。
出発間際、おばあさんとその娘らしきおばさんがドヤドヤと乗り込んで来たかとおもうと、娘が僕のとなりにどかっと座った。
世の中の大半の人は腹筋が弱っていて、座る時に体を支えきれないため、ジャンプして座るような恰好になる。するとどすんと大きな音がして、となりの人はその反動で体が浮き上がったりする。
それだけならいいのだが、その娘は抱えきれないほどの紙袋(お土産らしい)を僕の足下に置いた。
おいおい、そこは僕が足を置いているだろう?ジャージを履いている僕の足、君には見えていないのかな。
そう言ってもよかったが、とりあえず、電車が出発するまで、小言は保留した。
すると、意外な展開が待っていた。
発車のベルが鳴り止んだ頃、今度は両親とちびっ子、幼児の四人家族が乗り込んできた。
どこに座るのかな?と見守っていると「彼らは僕ら」のとなりでぴたりと停止した。
そして「おかしいな」とばかりに手元の軟券と座席番号を照合している。
そして、ヤンママがきっぱりとした口調でこう言った。
「そこ、座席合ってますか?確認してもらえます?」
こういう時、女のほうが強い。
男はたいてい、ちょっと尻込みするか、もう少し遠慮がちにものを言う
(考えには個人差があります)
すると、おばあさんがすっくと立ち上がった。
憤懣やるかたないといった風情だ。
これはおもしろくなった
じゃなくて、面倒なことにならなきゃいいがと僕は見守る。
「これ、見てみらんね。16のCやろ。ここじゃなかとね」
どうやら、座席は合っているらしい。
しかし、ヤンママは何かが気になった様子
「ちょっと、いいですか?」
そう言っておばあさんの手から軟券を取り上げて、まくし立てる。
「これ、一ヶ月前の日付ですよね?七月って書いてあるでしょ?これじゃ乗れませんよ」
おばあさんは反撃する
「だから一ヶ月前に買うたとよ。一ヶ月は有効やろうもん」
ヤンママと旦那は勝負あったとばかりに、冷静に引導を渡す。
「とにかく、これはココには乗れませんから。車掌さんに聞いてください」
しっしっ
とは言わなかったが、そう言わんばかりに、テキパキと荷物を網棚に載せて、はよ、どっかイケよ!という空気を作る。
さすがに、ここで万事休すと悟ったおばあさん、娘に「どうすりゃいいとね。ちょっととなり(の車両)行こう」と言う。
渋々娘が立ち上がり、僕の足下が自由になった。
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