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2020年1月19日 (日)

「厚底」ヴェイパーフライ 禁止説について

1月15日以降「ナイキの厚底が禁止される」というネットニュースが出ている。
ナイキ所属でヴェイパーフライユーザーの大迫傑がこれに対して「どちらでもいい。早く決めてくれ」という旨のtweetをしたものだから、各ニュースサイトはこの情報をバズらせる勢いを得た。
ただ、17日には讀賣新聞本紙にも「厚底規制月内結論か」と掲載されたので、もう洒落では済まなくなってきた。


これらのニュースがいう「厚底」とはナイキが2017年7月に発売して以来、1年に1度モデルチェンジして販売している「ズーム ヴェイパーフライ」を指している。

2017年の初代、2018年の第2世代までは「ヴェイパーフライ4%」という名前だったが、2019年の第3世代では「ヴェイパーフライNEXT%」という名前に変わったため、この靴を特定する用語としては「ヴェイパーフライ」が妥当。
2020年箱根駅伝で区間賞をとった選手は、直後のインタビューで快走の理由を問われて「最近、ヴェイパーフライとか出て、そういう効果もあると思うんですが、自分のやってきたことが間違いではなかったと確信がもてた」と語っていた。恐らく"やってきたこと"はフォアフットまたはフラット走法で、それがヴェイパーフライを得て結実したということだろう。


この靴を使用禁止にするのは理屈が通らない。

争点は世界陸連規則「競技に使用されるシューズはすべてのランナーが合理的に利用可能でなければならず、不公平なサポートや利点を提供するものであってはいけない」に抵触するかと思われる。

この靴は、3万円で市販しており、市民ランナーでも買える。当初は発売日にナイキ原宿に並んでも買えず、ネット通販は発売開始と共に"秒殺"という時期が続いたが、2019年以降、常時ネット通販で買える状況になっている。
誰もが買えるかというと、お小遣いの少ない高校生や、最貧国の陸上選手は買えないかも知れないが、世界陸連規則はそういうことを言っているのではない。

「合理的に利用可能」ではない靴とはどういうものを指すのか?
たとえば、かつてasics社員だった頃の三村仁司が作り、有森裕子、高橋尚子、野口みずきがメダルをとった靴のようなものだろう。
ただ、それらの靴は各個人に合わせて素材、ラスト(足型)などを調整したものであり、カーボンプレートなどの運動性能を向上させる「仕掛け」が入っていた訳ではない。従って、三村仁司に靴を作ってもらえない選手が「あれはルール違反だ」ということはなかった。

この基準に照らすならば、MIZUNOが試作して創価大学の嶋津選手が履き、箱根駅伝10区の区間新記録をだした「白い靴」を禁止しなければならない。
元々ノーマークだった選手が、ヴェイパーフライで走ったすべての選手よりも速く走っていることからみて、何らかの「仕掛け」が入っているのは自明だ。

創価大学の嶋津雄大 10区(23.0km)1時間8分40秒
過去の記録は1時間8分59秒 松瀬元太 順天堂大学 2007年(83回大会の10区は23.1km)


ヴェイパーフライを禁止するならば、その「仕掛け」が理由でなければ妥当ではない。
ヴェイパーフライの特徴は「厚底」と「カーボンプレート」
「厚底」つまり、分厚いミッドソールは「ズームXフォーム」でできており、足への衝撃が少ないが反発力は失わない素材。
通常、衝撃が少ないと反発力が失われるため、遅くなってしまう。
レジェンド松下が"まるで無重力"と宣伝している「Gゼロインソール」を靴に入れて歩くと、明らかに速度が落ちる。
だが「ズームXフォーム」は遅くならない。
ただし、ヴェイパーフライで走る選手が速い理由は「厚底」ではなく「カーボンプレート」の方だ。

禁止理由に挙げるならば、選手に運動能力を付加する「カーボンプレート」の方でなければならない。
「厚底」という単語でこのテーマをくくっているのは妥当ではない。
かつて、禁止された「高速水着」は抵抗を減衰させた。あれが禁止ならば推進力を付加する「カーボンプレート」を禁止するのはわかる。
禁止するならば「ソール全体に推進力を付加するプレート状の部品を組み込むこと」を禁止すべきだろう。「ヴェイパーフライ」を名指しで禁止すれば、今度は皆がMIZUNOの「白い靴」を泊だけのことだ。


かつて、スキー板の仕様規則、モータースポーツでエンジン規格が変わった時、そこには誰かの「一人勝ち」があった。一人勝ちしている者たちの道具を規制することで、戦いの土俵を中央に引き戻す。そこには得をする誰かがいる。


「カーボンプレート」を禁止することは望ましくない。
古代五輪ではないのだから。
革新的な道具を得た選手による、より速く、より強い成果に見る者は酔う。

もし禁止となっても、市民ランナーへの影響はないだろう。
かつて、アマチュアゴルファーに対して「ピンアイ2」が禁止されなかったように、市民マラソン大会で「ヴェイパーフライ禁止」となることは考えにくい。
日本陸連主催大会が「ヴェイパーフライを禁止します。履いて走ったら失格です。発見次第競技から排除します」と言い出すことはないと思う。

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