ハゲたらもうやらない(角松敏生)
「はっきり言って、ハゲたらもうやらない」
確かそんな台詞だったと思う。
今から30年ほど前になるが、角松敏生がステージでそう言った。
僕は大笑いしたが、彼は大真面目だった。
最近は知らないが、当時は公演の途中にトークコーナーがあり、角松は呑みながら言ったことなので、覚えているかどうかわからない。
ただ、髪が少ないことを気にしていたのは確かだろう。
その言葉は僕の心に突き刺さった。
確かにそうだ。男はハゲたら終わりだ
(意見には個人差があります)
そう言うと、大概の女性は「そんなことはないよ。気にしすぎだよ」と言うのだろうが、ハゲる切実さは、そうなってみなければわからない。
男女を問わず、髪が薄くなり頭皮が透けて見えるのは避けたいものだ。
角松がハゲたらもうステージに立たないという気持ちはわかる。
彼のライブは僕の目検では8割がた女性で、福岡サンパレスの二階席から下をみおろすと、真っ赤な絨毯が敷かれているのかと思った。
それほど、赤いドレスでバッチリ決めた女性が多かったのだ。
歌だけでなく、その存在感のかっこよさもストロングポイントである角松にとって、落ち武者のような風貌でファンの前に立つのはいたたまれないと思ったのだろう。
「motoさん、ちょっと髪の毛細くなってますね。ヤバイですよ」
そう言われたのは僕が23歳の時だった。
言ったのは、四年前から髪を切りに行っている美容院のマスター伊沢さんだ。
その後、インターネットが登場して超情報化社会となった今でこそ、20台で薄毛に悩む若者はありきたりになったが、当時、20台でハゲている人はいなかった。
戦慄が走った
いつもより、髪が細くなっていて、ボリューム感が失われているらしい。
毎月のように僕の髪をみている伊沢さんの言葉には説得力があった。
ど、どうしたらいいですか?
伊沢さんは迫害されたキリスト教徒を優しく導く神父さんのような風貌で、髪はふさふさ、髭ぼーぼー。それも説得力を増していた。
伊沢さんが勧めてくれたのは、その店で取り扱っていたシャンプー。市販されているシャンプーには、いろいろと髪にはよくないものが入っているという。
「あとは牛乳や乳製品がいいですよ」
この時初めて、市販されているシャンプーと市販されていないシャンプーがあることを知った。ここでいう「市販」というのは、大手企業が大量生産して店舗で販売しているものをいう。
以前は「直販」と「市販」の間には明確な境界線があったが、現在は互いが境界線から向こう側へ侵攻しあって、境界は曖昧になっている。
牛乳が効いたかは怪しいが、数ヶ月後、伊沢さんから「一頃よりよくなりましたね」と言われた時は、心から安堵した。
つづく
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