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2020年5月23日 (土)

音楽の先生が貸してくれた「断絶」

中学校に上がって音楽と出会う。
それまでもフォーリーブス、スパイダース、Pygといったグループのレコードは持っていたが、おこづかいには限りがある。
保有している音源はとても少なく、たまにステレオで聴き、歌詞カードを見ながら歌う程度だった。

その日、音楽の授業が終わり、音楽室から教室に戻ろうとした時、音楽の立岡先生に声をかけられた。
「moto君、ようすい聴いたことある?」
その名前が、かすかに記憶に引っ掛かった。
確か、従姉妹のアツコちゃんが言っていた人だ。

僕が親戚の家に遊びに行くと、彼女はその時"はまっている"音楽について、僕を啓蒙する習慣があった。
ある時はディープパープル、ある時は南こうせつ、そして、その日は陽水。

「満員電車で床に倒れた老婆が笑うとってよ、詩のすごかろ~」
と言って、彼女はその秀逸さを力説した。
なんじゃ、そりゃと思ったが、尋常ではない人だということは伝わり、その違和感が記憶に残った。
(ディープパープルについて、何を説得されたかは覚えていない)


立岡先生から「家にステレオあるとよね?これ貸してあげるけん」といって手渡されたLPのジャケットには階段に座ったアフロ青年。タイトルは「断絶」とあった。
なぜ、学校に私物のレコードを持って来ているのか、それを生徒の僕に貸そうとするのか意味不明だったが、せっかくのご厚意なので僕は快く借り受けた。

今思えば、自宅にステレオセットがある家というのは、他にはあまりなかったのだろう。もしかすると、この記憶は僕のねつ造で、僕の方からレコードの貸与を要請したのかも知れない。
もう会うこともないから、いいだろう(笑)


「音楽」と出会った。
まとまった音楽という形に出会い、それが、習慣になるきっかけは陽水だった。
とここで、陽水について語りたいところだが、本題から逸れるので、後日の巻として、ラジカセの話しに戻る。


それまで僕の音楽習慣は、レコードをターンテーブルに乗せて盤面を傷つけぬよう慎重に針を落とし、聞き終えたら元の袋に仕舞うだけのものだった。
初めて借りて来たレコード。借りたものは返さなければならない。いずれ、聴くことはできなくなる。
この音楽を手元に残したい。されど、方法がない。
後に少々の知識を得た後ならば、ステレオのヘッドホン端子に変換アダプターを挿し、ミニプラグのコードでテレコにつないで録音するという手段を思いついただろう。

「断絶」を盤面に傷つけることなく、立岡先生に返すことができて、ほっとする反面、また聴きたい、もっと聴いていたいという思いが募った。

つづく

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