緊張の一瞬 絆創膏が剥がれない
八話
順番待ちではないが、会計だけは少し待った
CT、4針打ちという一連の処置が迅速だったので、そう感じたのかも知れない。
この時点で 当初、想定した最悪の事態から1,2が消えた
1,怪我が及ぼす今後の生活への影響
2,ガラスが割れた場合の経済的損失
3,傷が残ること
それでも3の不安が残っている
僕はそれを詳細に言葉にすることを畏れていた
言葉は言霊
言葉にすれば、それを現実として引き寄せてしまう気がする
掃き出し窓に頭から突っ込んだ90分後には、病院で4針縫い終わって、再び自宅に戻ってきた。
深夜1時半
怪我の処置もしたことだし、歩いて帰るしかないと思っていたら、僕を病院まで運んでくれたタクシーが、病院の玄関で客待ちしていた。
コロナ禍により深夜のタクシー需要は落ち込んでおり、流しの客は望み薄。ならば、救急からの帰宅客(僕を含めて)を待つことにしたのだろう。
絆創膏に塞がれているので、今縫った(打った)ところがどうなっているかわからない。
時折、傷口のほうから「ずきっ」と痛みがやってきて、どうだオレは今けが人なんだぞと主張するが、それは一瞬であり、忘れて居ればいつもと変わらない。
痛みで眠れないということなく、あっさりと眠りについた。
一夜明けると、その痛みも消えていた。
頭に絆創膏を付けたまま会社に行くのも、駅まで歩くのも、客足が戻ってきた電車に乗るのも気が重い。
よし、会社を休もう
いつもならば、そう思うところだが、幸いその日は在宅勤務。
メール越しに「頭を4針縫った(打った)」ことは伝わらない
オンライン会議に呼ばれることもない
時々、いつものクセで髪をかきあげようとして絆創膏に指がひっかかり「あ、怪我してたんだった」と思い出す程度。
いつも通りの仕事を終えた。
夜がきて、その日の入浴時間になった。
小学一年生で頭を3針縫った時は、もっと慎重だったと思う。少なくとも翌日から頭を洗ったりしていない。確か、一週間後に抜糸した日にようやく頭を洗い、髪がぱさぱさ、べたべたになっていた。
恐る恐る絆創膏を外す
ところが、これがなかなか外れない
もしかして傷口にひっついているのか・・
実はこの絆創膏、髪の毛を使って留められていたのだった。
絆創膏の上に周りの髪の束を折り返し、その上からメンディングテープを貼る。
そうすると絆創膏が剥がれない。
剥がれなかったのは、髪がテープにくっついていたせいだ。
髪の毛が抜けないように慎重にテープを剥がしていく
別の意味で緊張した
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