今しかない頭に刺さったホッチキスを触る日々
九話
頭を縫った夜、いよいよ頭を洗うとなると緊張してきた。
今、傷口はどうなっているのだろう?
頭を洗って、傷口からばっちぃ湯が染みこんだりしないのだろうか?
市川実日子医師は「頭を洗っていい」とは言ったが「シャンプーを使っていい」とは言わなかった。
「シャンプーは使っていいですか」と質問するのは、何も考えてない人みたいで憚られた。
そういう人は、次は「リンスはどうですか?」と畳みかけたところで「はい、お大事に!」といって診察室を追い払われるだろう。
結局、シャンプーは使わず、ぬるま湯で汚れを洗い流すに留める。
怪我をする数時間前、岸本葉子「50代からの疲れをためない小さな習慣」を読んだことで、前夜のシャンプーを1回飛ばしたことを後悔した。
それよりも、その本に書いてあった転倒事故が6時間後、自分を襲うとは・・
読んだ本そのままの展開、びっくりだ
昨晩、病院で会計を待ちながら畏れていたのは「傷口が禿げる」のでは?ということだった。
小学一年生の時に3針縫った怪我でできた線状の傷口からは2度と髪が生えてくることなく、そのまま禿げになった。
大学生の時に交通事故でできた傷口も禿げになり、行きつけの美容院では「円形?」「ここ禿げてるね」とあからさまに言われて憤慨している。
頭に傷を作るのはこれが3度目となる。
これは日本人の平均に照らして、多い方ではないだろうか?
風呂上がり、鏡に映して傷の位置を確認する。
この24時間、これが心配の種だった。
幸い、傷の位置は生え際から離れていた
意識してその当たりを注視してもわからない
手で髪の毛をかき分けると、ホッチキスのピンが光っていて、あぁここなんだと初めて分かる
この日から抜糸(正確な名称は後述)までの6日間。
特にいつもと変わりのない日常が続く。
歯医者の予約を延期したのと、髪を切りに行く予定を伸ばしたくらいで。
それから、指でホッチキスのピンを触るのが日課になった。
この6日間、今しか触れない「非日常」の体験だからだ。
市川実日子が迷い無く打ち込んだ初めの3本は規則的に並んでいる。
だが、そこから少し向きが変わり、間隔が広くなっている。
少し間が空いたのは、傷口がカーブしているせいか
4針だと思っていたが、何度か数えてみるとピンは5本あった。
時々、髪の毛が指に引っ掛かるのは、髪の毛の上からピンが打たれているらしい。
確かに、あのスピードで打てば、髪の毛が噛んでしまっても仕方ない。
翌日からはシャンプーを使って頭を洗う。
それでも、できるだけ傷口の周囲にはシャンプーがかからないようにした。
まだ針があるということは、傷口がくっついていないということであり、そこにシャンプーが入るのはよくない気がしたからだ。
風呂上がりの発毛剤の塗布にも注意した。血流の活性化で発毛を促す医薬品を浸けていいわけがない(と思う)
傷口の消毒もなければ、服薬もない
時折、髪をかき上げようとしてピンに指をひっかけて「やべ」と怪我を思い出す。
鏡を見ても、怪我をしていることはわからない。
自分から言わない限り、誰も怪我には気づかない。
そうして、あっという間に一週間が過ぎて "抜糸"の日がやってきた。
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