上五島でマスカラスの身体をペチペチできなかった日
毎年受けている健康診断。
一瞬だけ、とても気合いが入る場面がある。
「身長測定」だ。
できるだけアゴを引き、背筋をあまり伸ばさず、頭のてっぺんが最高の位置をとるよう調節する。
そして、もっと厚手の靴下を履いてくればよかったと悔やむ。
「歳をとると背が縮む」と聞いたことがある。
腰が曲がった老人だけではなく、50台の初老?の人からもそう聞く。
ここ数年、計測結果は±1cmの範囲で行ったり来たりしているので、まだ縮み始めてはいないようだが、なんとか今の身長を死守しなければならない。
本来ならば、僕の身長は170cm台の後半、あわよくば180cmにも手が届くはずだった。
その根拠はないが、背の高さ順で整列する小学校ではいつも後ろからすぐの位置を維持していたし、中学校に上がり成長期を迎え、さらにその伸びは加速するはずだった。
ところが、背の伸びはぴたりと止まってしまった。
理由はブルワーカーだ。
他に考えられない。
クラブ(部活動のこと)は背が伸びると聞いてバレーボール部に入っていたし、五島列島に住んでいたので、カルシウムが豊富な魚がこれでもかと食卓に並んでいた。それなのに身長はぴたりと止まり、いつのまにか整列位置の中盤に吸収されていた。
遠因はその頃の僕が"三度の飯よりプロレス(全日本)が好き"で、特に「覆面レスラー」という怪しげな設定の人達に強く惹かれていたことにある。
町中どこをみても、覆面を被ってあるいている人はいない。
テレビのブラウン管と「別冊ゴング」の中にだけ存在する人々。
中でもマスカラスの虜になった。
「戦の顔を持つ男」と異名を持つ彼は、試合ごとに覆面を取り替える。そしてうっとりするような逆三角形の肉体・・
あの体型はどうやったらできるのか?
一度、僕が住む上五島にミル・マスカラスがやって来たことがある。
彼にしてみれば東洋のハズレまで出稼ぎに来たら、さらに小さな船に3時間も揺られて旅館で宴会(多分)という興行は、ずいぶん酔狂なものに感じられただろう。
「マスカラスが見たい」
思いは募ったが、別冊ゴング(450円)でさえ「家庭の方針に合わない」といって買ってくれなかった父に「プロレスに行きたい」とは言い出せなかった。
上五島に「ジャイアントシリーズ」がやってきた秋の日、僕は青方の体育館に自転車を走らせた。
そこに居れば、試合を終えたマスカラスをひと目見ることができるかも知れない・・
しかし、会場から出て来たのはフレッド・ブラッシーだった。
トランクス一丁で出て来たブラッシーは、前歯をヤスリで磨いでいなかった。それどころか、上五島のおばちゃんにペチペチと身体を叩かれながら「おぅタクシー、タクシーね」
と笑顔をまき散らしていた。
悪役の外人も本当はいい人なんだな
と、大人にとっては当たり前のことを学んだ日。
いつまでもマスカラスの出待ちをするわけにもいかず、その日、憧れのマスカラスの身体をペチペチすることはできなかった
(別にそれ狙いじゃないけど)
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