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2021年12月18日 (土)

送別会で定年退職者を泣かせたスピーチ

定年退職する権田さんに送る言葉はいよいよ最後の一人。
一般的な送別会ならば、最後は取締役や部長といったお偉いさんが取りを飾るところだが、今日は席順。
ということはこの宴席は固定席で行われているということであり、およそ二時間ほどの送別会の間、一度も権田さんと言葉を交わしていない人も多くいただろう。

その場ですっくと立って話し始める。持ち時間は決まっていない。ここまでの皆さんはおよそ2~3分というところ。ここは1分ちょっとでまとめよう


ナゴヤ支社からこの部署に移ってきた時、始めに権田さんにガツンと言われたことがあります。
「素人でちょっと詳しい人と、プロでは全然違うんだぞ」
それは、珍しくパソコンを使う支社員だった僕に※、本職のシステム担当者は次元が違うんだぞということを、わかりやすく表現されたのだと想います。
(権田さん、そんなことも言ったかなと笑っている)

それ以来、権田さんには厳しくご指導いただいてきました。
横浜の印刷所に権田さんと行った帰りのことです。
私がクルマを運転して、会社の駐車場に車庫入れを終えた時
「君は運転だけは上手いな」と言われたのです。
(「えらそうに^^)」と同僚から野次が飛ぶ)
この一年、叱られてばかりで、褒められのはこの時だけですが、1度だけでも褒められて嬉しかったです

ここまでは、和んでいた空気が次のひと言で凍り付く

もし私が今日この会社を去っても、1週間もすれば誰ひとり僕のことを覚えていないと思いますが、今日で居なくなる権田さんのことは1か月、1年たっても誰も忘れていないと想います

権田さんの健康をお祈りしています。ありがとうございました。

そう言い終えた僕は、座の空気を窺うようなことはせず、タイマーで消灯するライトのように、即座に着席して参加者の一人に戻った。
すると、想定外のことが起きた。
入れ替わりにとなりの権田さんが立ち上がったのだ。無理やり椅子を引いたので、床が軋んだ。
なにか言うのかと想うと、立ち上がった一連の流れで、すたすたと歩き出した。

本来ならば、ラストバッターの僕が話し終えたところで、おもむろに立ち上がった権田さんの独演会でも聞くか・・という場面だ。


そして、走りださんばかりの速さで歩いた権田さんは、そのまま部屋から出て行ってしまった。
(漏れそう!という話しか)
歩きっぷりだけを見ると、限界までトイレを我慢していた風情だが、彼がハンカチを目に当てているのをみて、誰もが状況を察した。

あれ、どうしちゃったのかな~
幹事が素っ頓狂につっこんで場を和ませようとしても、場の空気はまさにキツネにつままれたよう。
5分ほど経っただろうか「いや、失礼した。ん?じゃオレが話す番か」と言いながら権田さんが帰って来た。誰の目にもそれが彼の照れ隠しだとわかったが、誰もそれには突っ込みを入れなかった。


僕はこうして、初めて出席した定年送別会で、主賓を泣かすという快挙?を達成してしまった。
この時、20年後には僕にも定年がやってくること、その送別会があるであろうことも思いを馳せることはなかった。


※当時、仕事としてのパソコンは普及前で、自前ノートパソコンを営業に使っていた支社員は二人しかいなかった

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