定年退職の挨拶原稿
定年退職の挨拶原稿を考え始めたのは、退職まで1,000日となった頃
ウォシュレットで尻を浮かすのはやめましょう
⇒驚異の定年退職スピーチ(2)
最初はこのように、奇をてらった原稿が思い浮かんだ。ただ、3人くらいが笑ってくれたとしても、9割以上の同僚を不愉快にすると想って止めた。
挨拶原稿は退勤定時に臨時の夕礼が開催されて、そこで数分の時間をいただくことを想定している。
本来、僕の職場には朝礼も夕礼もない。
直近に退職した先輩が二人つづけて、雇用延長を選択せず、送別会の開催も辞退していた。
その折りには、最終出社日に臨時の夕礼が招集された。
「*日の**時頃から、サトウさんご退職の挨拶で夕礼をしますので、極力、参加してください」
数日前に部長から、このようなメールが配信される。
当日は定時になると、部長とサトウさんが窓辺に立ち、同僚の皆が座席のところで起立する。
部長から簡単な前振りがあり、サトウさんが別れの挨拶を述べる。
そして、ゆかりの深い同僚から花束や記念品が渡されて、拍手が起きる。
それから、全員で記念撮影。
サトウさんと部長を中心に据えて、全員が映り込むように間合いを詰めて並ぶ。あまり映りたくない人は最後列に並ぶ。
セッティングができたら、シャッターを押すのは通りがかりの他部署の社員に頼む
ただし、これはコロナ禍前のこと。
コロナ禍以降、僕が初めての定年退職者となる。
お忙しいなか、お仕事の手を止めていただき、ありがとうございます。
長くご一緒した方、短いおつきあいだった方、皆さんのおかげで無事、定年退職の日を迎えることができました。
これからは、この会社の1ファンとして、応援したいと想います。
皆さんとご家族の健康と発展をお祈りしています
ありがとうございました
時間にして40秒程度
これならば、僕のことを快く想っていない人でも「なげぇよ」とは言わないだろう
「短かっ」と言われるくらいがいい
それにまだ、実際の定年まで3年ある。
とりあえず、今のところは、これくらいシンプルで。
近くなれば、想うこともあるだろう
その時はそう考えていた。
しかし、その後、世の中はコロナ禍となった。
送別会は辞退するまでもなく、その企画さえ立ちあがらないだろう。
ならば、最後の挨拶で受け取るであろう、花束や記念品の類いも辞退しよう。寄せ書きも要らない。
先輩が退職する際、寄せ書きが回ってくる度、憂鬱な気分になった。
文章を思いつかないということではない。
第二の人生を謳歌して
人生百年、ご自愛ください
また、遊びにきてください
非現実な目標や、不思議な目線、主旨がわからないきれい事が並んだ色紙に、それを上塗りするような工夫の欠片もない言葉を書き足していく人々。そして、それを送られる側の気持ちになったのだ。
正月に届いた年賀状の多くが、本文はおろか宛名書きまでパソコンで印刷されていた時のような気分になるだろう。
結局、最初に書いた挨拶原稿が、退職日までアップデートされることはなかった
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