インスタに載ったエアコンのリモコン
飯塚さんが「冷房」のボタンを押すと、音を立てて冷風が吹き出し始めた。
団長は未明に部屋に入り「日本のエアコンは冷えないなぁ」と想っただろうか、蒸し風呂のなかで一夜を過ごしていた。
The cooling button is blue.
青いボタンが冷房ですよ
僕が教えてあげると、団長にっこり
(喋ったのはポケトークだが)
なぜ、暖房をつけたのだろう?
不思議に思い、リモコンをよくみると「冷房」「送風」といったボタンは漢字。つまり日本語で書かれていた。
お手元にある、あなたの部屋のリモコンはどうだろうか。ちなみにウチのリモコンも漢字で書いてある。日本国内で使われる家電のリモコンは日本語表示なのだ・・
この「リモコン話し」はカナダの選手がインスタにあげたことで、広く知られている。
すべて漢字で書かれた操作ボタンを映したあと「HELP」という字幕を入れていた。
選手村では、他にも段ボールベッドを揶揄した投稿があったが、そちらは、後に選手が謝罪したという報道があった。
選手によるSNS投稿は、こうしたマイナス要素のものだけでなく「設備がすばらしい」
「食堂の餃子が美味しい!」といった投稿も多かったようだ。
ただ、僕らにはゆっくり、投稿を探す時間はなかった。
Field CastはSNS投稿を自粛していたので、良いことがあっても発信はできない。
多くの人々の反対、冷ややかな視線を感じながら従事している僕らにとって、選手の皆さんが、五輪全般について前向きな情報発信をしてくれるのは、とても、ありがたかった。
ただ、そうした投稿が「やっぱり、オリパラやってよかったよね」といった世論につながるということはなかった。
選手にとって役に立つ情報を作りたいと考えて、リモコン設定について簡易な英語版手引きを作り、QRコード経由でスマホで見られるようにした。
同様の資料は、事務局としての公式版もつくられたようで、いくつかのレジセンに掲示されていた。
「ちょっと、きて」
A国選手団の部屋を回って基本的な備品の確認が終わり、帰ろうとすると、団長が瀬戸さんに手招きした。
なにか、質問かなと見守っていると、団長が紙袋からカラフルなブレスレットを取り出し、瀬戸さんに渡した。
「これをあなたに」
たぶんそう言ったのだと思う。
つづいて、飯塚さんにも同じものが渡された。
僕にはないのかな・・と物欲しそうな気持ちを悟られぬよう、視線を宙に浮かせていると、団長がさらに袋を探り、細かいパイプをつなげたような渋めのモノが出てきた。
選手村活動では、この後、各国選手団より、いろいろな品をいただくのだが、この時そんなことは予想していない。
初めての贈り物に、大きな高揚感があった。
3人で待機部屋まで戻る道すがら、職員の瀬戸さんは饒舌だった。
「お二人は無駄口を言わずについてきてくれるので助かる」
その言葉から、いろいろなことを察することはできたが、飯塚さんと僕は「わかります」とは言わず、にこにこと笑っていた。
およそ2時間で待機部屋に戻ると、ちょうど早番の食事時間になっていた。
「今のうち、食事に行ってきてください」
というリーダーの言葉に促されて一人で食堂へ行く。この日の丼モノは「冷やし中華」
初日に食べた冷やしうどんもよかったが、ここまででは、この冷やし中華が一番。やはり、炎天下の元では詰めたい麺が嬉しい。
食後、30分ほど待機していると
「事務局の了解をとりました。今日はもう帰っていいです」
そうリーダーから告げられて、業務終了となった。
ちょっと、もの足りない。
ただ、こうした状況は初めのうちだけ。
暇な部署から忙しい部署へ、機動的に人員のやりとりが行われるようになった。
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