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2022年6月30日 (木)

選手村の内と外に見えていた別の世界

選手村の朝は早い。
中には24時間稼動している部署もある。
そういう部署には、Field Castではなく、コントラクターと呼ばれる業務委託の方が、いわゆる夜勤を務めていた。

僕がアサインされた朝番シフトでは、7:00集合が最も多かった。
朝は 4:45起き。
いつもならば、自分が二度寝することを想定して少し早めに目覚まし時計をセットするのだが、選手村生活の間は、そういうことをしなくても、一度「ぴぴっ」とアラームが鳴ると、ぱちっと目が覚めた。
それだけ、緊張していたのだ。

電車を乗り継いで「勝どき」で下車。
そこから15分ほど歩いて、選手村に入村する。
仕事が終われば、その逆ルートで家路に就く。


往復の道すがら、服装は上から下まで全身ユニフォーム着用。
人前でユニフォームを着ることは、サッカーやマラソンで慣れているので苦にならない。
研修の際「自宅から着用して来てください」と言われた時も、なんの違和感もなかったし、むしろ、そう言ってくれる方がありがたかった。


人見知りだが、目立ちたがりの僕にとって、五輪ボランティアとして、家から選手村まで堂々とユニフォームで行けるということは、このうえなく誇らしいことだ。

世が世ならば、嬉々として町を歩いていただろう。
だが、2021年、東京は違っていた。


「ちょっと、質問いいですか」
いよいよ来週から選手村に行くという日。
職場のマリちゃんから声をかけられた。
僕が有給休暇を使い、ほぼ2ヵ月居なくなるので、その前にとのことだった。
彼女は小道具作りのセンスがあり、僕が「収納箱」や「出席票」といったモノ作りを依頼すると、快く引き受けてくれて、期待以上にデコった箱や可愛い出席票を作ってくれた。

「大丈夫ですか?刺されるんじゃないですか?」
縁起でも無い、彼女の言葉にドキッとした。
僕が選手村と自宅の往復はボランティア・ユニフォーム着用というルールだと話したことへのコメントだった。

彼女の言葉は極端ではあるが、五輪の内側と外側に起きている分断が、肌感覚としてそう言わせたのだろう。
さすがに、刺されることも、玉子を投げつけられることも想定していなかったが「世間の冷たい視線」は容易に想像できた。


朝早く自宅を出る時間帯は、人通りが少なく、近隣の人と顔を合わせることもない。
一方、帰宅する時間帯は人通りも多い。僕はいつも目を伏せ、誰にも見つからないよう、誰とも目を合わさぬように歩いた。

一度だけ、曲がり角の処で、となりの奥さんと出くわした。
僕は驚いて、咄嗟に相手の顔を見た。
だが、無言で脇をすり抜けた。
いつもならば、笑顔でこんにちはというところだ。
それは、睨み付けて無視したような恰好になってしまった。


選手村の内と外では、真逆の世界が見えていた。
選手村から一歩外に出ると、行き交う誰もが怖かったのだ。
その恐怖感は、すべての選手村生活が終わるまで、消え去ることはなかった。

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