« うまくいった人にもうまくいかなかった人にも優しい風が吹く夕暮 | トップページ | 「声は出せるけど立ってはいけない」 水戸-長崎戦の意外な設定 »

2022年8月28日 (日)

閉会式の日に登場したアイロン職人

8月8日
五輪閉会式当日
シフトはレジセンの早番(7:00-14:30)

午前中は、洗濯もののピックアップに行く選手がレジセンを通ってランドリーに行き来する。
閉会式に向かうシャトルバスは15:00頃から順次出発すると聞いている。

閉会式が行われる時間帯の国立競技場には雨の予報が出ている

お昼を過ぎると、大きなバッグを両手に抱えた選手たちが戻ってくる。
昼食がてら、ビレッジプラザで五輪土産を買い込んできたのだろう。

「バブル方式」で行われている東京2020では、選手の移動範囲は選手村と競技場を往復のみ。行きたい店へ自由に出かけることはできない。
唯一の買物ができるのが、選手村のビレッジプラザなのだが、ここには日用品と東京2020グッズしか売られていない
(Field Castは中に入れないため、見てきたわけではない)

日本独自の食べ物、家電製品、化粧品、サブカルチャーグッズ・・・
楽しみにしていた買物ができないのは、残念なことだ。
これが、生涯最初で最後の来日という選手も多いだろう。

選手も残念だし、日本の販売店の皆さんも残念。
誰も得をしていない。
若い人の間で流行っている「**しか勝たん」という言い回しを借りればまさに「コロナしか勝たん」のである。

本当の勝者など誰もいないのに、人と争って勝ち負けを決めたがる人が多いことが、東京2020で浮き彫りにされた。
それは「分断」と呼ばれた。


お昼を回った頃、レジセンに段ボール箱が運び込まれた。
中には簡易レインポーチが入っている。
予め想定されていたのか、なかなかニクい気配りだ。

箱を開け、一つを広げて見本として壁に貼り付ける
すると、選手たちが「僕にもくれ」「私には2つね」と言って集まって来た。

選手村の基本的な運用として「手渡し極力NG」があるので
「FREE!」と貼り紙をして、自由に持って行ってもらう。

しゃがんで2つ目の段ボールを開けていると、背後から何かが差し出された。
「This is for you」
と言ったかどうかわからないが、それは僕へのプレゼントらしい
2mmほど厚みがある名刺サイズの物体
どこかの街の夜景がプリントされているようだが、物体がエアキャップに包まれているため、正体不明

選手は物体と引換にレインポーチを一つゲットすると、すぐに自分の部屋に上がっていった。
特殊な電子部品だろうかとも思ったが、未だにこれが何だったのかはわかっていない。


ここ数日、選手たちから引っ張りだこだったのがアイロン。
晴れ舞台には、ぱりっとした衣装を着たい。
その気持ちは万国共通だ。

レジセンには貸出用のアイロンがいくつかあって、選手は自分の部屋で使って、レジセンに返しに来る。
閉会式が近づいてからは、一人でも多くの選手に使ってもらうため、貸出ではなく、レジセンそばのテーブルで使ってもらっていた。


ずっとさっきから、E国の青年が衣装にアイロンをかけている
E国の居住棟はここではないので、彼はアイロンを求めて、はるばるやって来たのだろう。

背筋が伸びた凜とした佇まい、微かにアルカイックスマイルを浮かべた青年は、プロのアイロン職人かと思うような熟練の技で、持参したトップス、ボトムス・・次々にしわを伸ばしていく

それはそれで見事なのだが、長い・・
次に使いたいと思っている選手が遠巻きにしている
だからといって、早くしてくれというのも違う気がする

ずいぶん長い時間をかけて仕上げた青年は、正装一式を大事そうに抱え、皆にお礼を言って引き上げていった。


閉会式に向けて慌ただしい選手たちとは裏腹、僕らサービス提供スタッフの出番はほとんどない。つまりヒマ。
早番のシフト終了14:30でぴたりと上がる。

できれば、閉会式に向かう選手たちを「行ってらっしゃい」と見送りたかった。


TPCを出る頃には交通規制が始まっており、いつもとは違う順路が指示されていた。
選手団を国立競技場に運ぶバスの第一陣が見えている。
沿道には、選手たちをひと目見ようという人々が待っていた。

東京2020ボランティアブログ目次

| |

« うまくいった人にもうまくいかなかった人にも優しい風が吹く夕暮 | トップページ | 「声は出せるけど立ってはいけない」 水戸-長崎戦の意外な設定 »

スポーツボランティア」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« うまくいった人にもうまくいかなかった人にも優しい風が吹く夕暮 | トップページ | 「声は出せるけど立ってはいけない」 水戸-長崎戦の意外な設定 »