うまくいった人にもうまくいかなかった人にも優しい風が吹く夕暮
「明日に向けて気持ちを作っていこう」
選手村ボランティアから家に帰るといつも、唱える言葉だ。
会社に行く日々であれば、慣れ親しんだルーチン。変わらぬ同僚。
特別な意気込みや心がけがなくても、やっていける。
だが、選手村では毎日が違ったルーチン。日替わりの仲間たち。
これまでうまくいったことが、明日も通用するとは限らない。
リーダーとしての役割をいただいて充実感がある。
職員さんたちの信頼の厚さも感じている。
だが、開村してすぐの頃と比べると、ドキドキワクワクではなく、守りにいってるような自己嫌悪もある。
奢り、緩み、たがの外れがあってはいけない。
謙虚な態度、絶やさぬ笑顔、怒りに付き合わない
明日もその姿勢で行こう!
と確認してから「日々の作業」に移る。
「用語集、いつも読んでます!」
お昼に食堂で顔を合わせた仲間が声をかけてくれた。
楽しみにしてくれてる人が目の前に居て声が聞こえる。顔が見える用語集。
日ごろはネット上で「顔の見えない用語集」をやっているので、こうした反応が嬉しい。
それが、どんなに疲れていても、毎日用語集を改訂するモチベーションにつながっている。
用語集まで終えると、もうすぐお風呂と就寝時間。
1日を振り返ることも、余韻に浸るひまもない。
奇跡の1日の翌日も、同じA棟でリーダーを担う。
Field Castは女性ばかり5人。
お父さんもField Castをやっているという大学生、寸暇を惜しんできめ細かく動く方、独自のスタイルを持っている方、人の多様性を実感する彩りのメンバーに囲まれた。
ロビーのテレビにはSTBがつながっており、会場で行われている競技のライブ模様が映し出されている。
テレビの前には数席のソファーが置かれている。
そこで選手たちが競技に見入っている。
これだけリラックスしているということは、もう自らの競技は終わったのだろうか。
思っていた通りの結果だ!という選手もいれば、今ひとつ、あるいは意気消沈している選手もいるかも知れない。
仲間の競技をみて、今何を想うのだろう。
チーム(国と地域)の仲間が見ているところに、また一人、そしてまた一人とその輪に加わる。
初めは二言三言、言葉を交わすが、その後はこの時代のマナーに則っている。
違うチームの選手は少し距離を置いて、静かに画面に見入っている。
A棟は「SEA」エリアにあり、舗道を挟んで海が目の前
時折、誰かが出入りしてドアを開くと、海辺から穏やかな風が吹き込む
うまくいった人にもうまくいかなかった人にも優しい風が吹く夕暮
選手は思い思いの夜を過ごす
僕らは、テレビを見ている選手たちの後ろから、その景色全体を視界にとらえ
静かに見守っている
「この光景を眺めていられるのは特別ですよね!」
仲間の一人が小声でつぶやいた
僕はマスクから出た目だけで思い切りにこりと笑い、うんうんと頷いた
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