海辺の下宿で一年を共に過ごした七人の男たち
海辺の部屋に住むのは唐津から来たバンドマンK
入学した時点でパーマをかけていて、それがカーリーヘアという名前だと教えてくれた
僕は高校の頃から、ブライアン・メイ(QUEEN)の髪型に憧れていた
どれくらい憧れていたかというと、当時の受験生が全員持っていた「試験に出る英単語」の裏表紙にMUSIC LIFE から切り取ったブライアン・メイの写真を貼り、その顔の部分に僕の顔を貼ってコラージュにしていたくらいだ。
Kのアドバイスを仰ぎ、半年後にはそのコラージュの姿を手に入れた時はとても嬉しかったが、周りは誰ひとり「いい」と言ってくれなかった。
Kは軽音楽部に所属している。部屋を訪ねると、いつもアンプにヘッドホンをさしてベースを弾いていた。どこか人を寄せ付けないようなところがあり、独特の空気を醸し出していた。
僕が学園祭で「のど自慢」に出る時、Kにギターとベースを依頼した。
実家から持ってきたオープンリールデッキで左トラックにギター、右トラックにベースを録音。それをカセットに落としたカラオケを主催者に提出した。
当時、西新にはカラオケパブが1軒あり、メジャーな曲であればそこでナマ録できたが、僕が選んだ西松一博「シーボニアランチ」は入っていなかった。
この曲は西松一博の1stアルバム「Good Times」収録でシングルカットされておらず、2022年の現在まで一度もカラオケを目にしていない。
1981年発売の「Good Times」は、当時のAORブームの下、どえらいヒットになると想ったが、そうはならず、1990年代以降の「レコード旧盤CD化」の対象からも外れていた。
ところが38年の時を経て、2019年4月にタワーレコード企画でCD化。見ていた人がいたんだなと嬉しかった。
熊本市から来たKsは豪放磊落。
一浪していて一つ年上ということもあるのか、自分が見下されているなと感じて、ちょっと苦手だった。
Ksと僕が互いの部屋を訪れたのは、それぞれ1度ずつくらいだった。
現役で入学した僕は、最初の2年間「浪人の壁」に遭遇していた。
男友達には「現役は苦労が足りん」
女友達には「現役は深みがない」
言われてみると、確かに浪人という人生における厳しい状況をくぐり抜けてきた彼らには、酸いも甘いも噛み分けたような落ち着きがあった。
もちろん、それは僕がお気楽だから、そう感じていたのかも知れない。
八代から来たホットプレートのマツダとの想い出は、このブログで2010年に書いている。
彼の価値観は僕には理解できなかった。
→お金を返してくれない人が悪いのか、催促しない人が悪いのか
下関から来たTは気のいいやつでみんなの人気者
「風舞(チャゲ&飛鳥)」「カルメン・マキ」のカセットをくれた
恐らく、押し入れのダンボールに今も入っていると思う
体育会系の部活に入っていたのはTだけで、練習や合宿で忙しいらしく、あまり部屋に居なかった。
長崎市から来たSは真面目を絵に書いたような男。僕と同じ愛好会「ちょびっと」に入った
僕らの入部のきっかけは、この年に限り発行された「新入生歓迎号」を手にしたからだった。
「moto、これに入らんや」
一見真面目なSが、このちゃらちゃらした部に入りたいと言ったのは意外だった。
モノが少ないのか、几帳面なのか、彼の部屋はどの部屋よりも広く感じた。
卒業してから20年が過ぎた頃、一度、会ったことがあるが、外見も中身もあまりに変わっていなくて驚いた
八幡から来たTは今でいう「癒し系」で皆のアイドル
いつも、こたつに入ってテレビを見ていた。
「こたつ」「テレビ」とくれば、たまり場の条件だが、不思議とTの部屋はたまり場にはならなかった。それはあと1つの条件が欠けていたからだろう。
最後にこの百道荘を教えてくれた岡田は佐世保北高校の同級生。
彼の部屋には「こたつ」「テレビ」「飲み物」という「たまり場三種の神器」が揃っていた。
彼がいじられキャラということもあり、いつも誰かが溜まっていた。
佐世保に帰った時、呑みに行くと彼だけは「おかえりなさい」と言ってくれる
故郷を遠くに想っている者にとって、この言葉は泣ける
コロナ禍以降は会っていない
前年から住んでいる上級生はいない。
誰かに先輩風を吹かされることもなく、気のおけない仲間たち
「同級生ばかりというのは、ある意味ありがたいね」
冬休みを迎える頃には、今がとても貴重な瞬間なんだということを、誰からとはなく言葉にするようになっていた。
「俺ら、いっぺんも呑んじょらんのやないんか。いっぺんくらい行こうや」
共に暮らした一年が終わる頃、熊本から来たKsが提案した。
百道荘の規則により、誰かの部屋で集まることはできない。
恐らくどこかの安い居酒屋に行ったと思うが、そこに何人が集まったのかも映像の記憶がない。
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