福岡に貸しレコードがやって来た日
曙荘にスピーカーが届き、夢にまで見た「僕のオーディオコンポ」は完成に近づいた。
最後の1ピースはチューナー。
中学のラジカセ生活以来、新たな音楽は「エアチェック」でを手に入れてきた。
聴きたいと思った音楽を新譜で買うことが難しいのは、アルバイトをしておこずかいが増えた今も同じだ。
そのために「FM」を受信するチューナーが欠かせない。
しかし、先輩の清原さんから譲り受けたモテるテーブルに「チューナー」が乗ることはなかった。
貸しレコードが始まったからだ。
大学1年を締めくくる後期試験が終わる頃、大学からほど近い国道202号線沿いのビルの2階に「JOYFUL西新店」が開店した。
この半年前、東京では日本初の貸レコード店「黎紅堂」がオープンしているが、当時はインターネットがない時代。情報量は限られている。離れた場所で発生する情報を得る手段は限られていた。
「貸しレコード」という言葉に、僕らは色めき立った。
LPレコードを買うということは僕ら若年層にとって、とてもスリリングな取り組みだったのだ。
僕らはおこずかいが少ない。でも音楽を聴く世代だ。
セブンイレブン碓井誠取締役は、2000年5月11日の講演で「コンビニにCDがある理由」に関連して次のように話している。
・コンビニにはCDを買う23歳以下の低年齢顧客が多い
・30台がCDを買わないのは、通勤ルートや、身近にCDショップがないからかも知れないという仮説のため、コンビニに置くことにした
・セブンイレブンのCD売上は、CDショップが多い東京よりも、ショップの少ない地方のお店が3倍売れている
この話を聞いて、僕はこう考えた。
音楽CDを買う世代は23歳まで。それまでは音楽中心の生活を送っている人も、30代になると音楽をあまり聴かなくなる。それは仕事、結婚、子育てに大半の時間が割かれて、ゆとりがなくなるためだ。
しかし、40代になって人生に迷い、50代になって時間のゆとりができると、音楽を聴く生活に戻ってくる。
時間がなくなって失った習慣、飽きた習慣はなくならない。
嫌いにならない限り、人はその習慣に戻ってくる。
というのが、僕の見解である。
話は1981年に戻る。当時、僕がレコードを買うまでの流れはこうだった。
月刊誌「シティ情報ふくおか」のレコード紹介で話題の新譜をチェックする。
レコード帯に書かれている「最高傑作」「チャートナンバー1」の文字に惹かれ、どうか「当たり」であって欲しいと祈りをこめ2500円を投じる。
だが大半の場合、それは僕の中では「最高傑作」から程遠いもの。レコード帯が恨めしかった。
若者にとってレコードを買うという取り組みは、ワクワクとがっかりの繰り返し。
経験を積むごとに、大人には騙されないぞと、気難しいものになっていった。
それが、貸しレコードの出現で「250円でOK」になったのだ。
従来は1枚のレコードしか買えなかった予算で10枚が借りられる。
*レンタル料は1泊2日で250円に設定されていた
当初、貸しレコード屋は定価で売るレコード屋から仕入れていたため、大学生のアルバイトに生協で割引のレコードを買わせていた。
生協で袋いっぱいのレコードを抱えているJOYFULの店員は、とても楽しそうだった。
※1985年施行の改正著作権法で「貸与権」が認められ、レコード会社から貸しレコード屋への商品供給が可能になった
レコードを選ぶと検盤台へ持っていく。落とさないよう慎重にジャケットからレコードをとり出して両面をチェック。
傷がついていないことを確認してからレジに持って行き、店員と傷の確認をしてから借りる。
返却時も店員が盤面をチェックして、初めはなかった傷がついているとそのレコードを買い取らなければならない。
ある時、先輩のAさんが JOYFUL店員からレコードを買い取るよう迫られる場面に出くわしてしまった。
店員は厳しい口調で「この傷はなかった」と言い、先輩は憮然とした表情で押し黙っている。
僕は居たたまれなくて、そっと店を出た。
客と店員による相互検盤という運用は、CDが登場して「貸しレコード」が「レンタルCD」になるまでの間つづいた。
幸い、僕が買い取りを迫られることはなかった。
検盤をして250円と引換に「Journey」の新譜レコードを持ち帰った幸せを想うと、今も笑顔になれる。
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