関門海峡に沿って、僕らはタンデムで風になった
納品されたブラインドを1つ僕がガメたと乗り込んできたヒロミちゃん
初対面の感じは悪かったが、互いの人となりを知った後はふつーに仲良しになった。
彼女の特徴をひとことで表現するならば「天真爛漫」
裏表がない、飾り気がない、素直
当時の言い方では「さっぱりしている」 今ふうにいえば「男前」という言葉が当てはまるかもしれない
そんなヒロミちゃんにシンパシーを感じたのは、彼女が下関出身だったことだ。
僕は幼少期を山口の盆地で育ち、下関に親戚が多い。
時折家族で行く下関が憩いの街だったし、関門橋ができていく姿にわくわくした。
「九州山口」という言葉がある。
山口は中国地方の西端に位置するが、地方のくくりとして九州と併記されることが多い。
(ウィキペディアにも「九州・山口地方」という項目がある)
特に山口県西端の下関は九州と並記されても違和感がない。
1年間、百道荘で同居し「風舞(チャゲ&飛鳥)」のカセットをくれたTも下関出身だった。
西南学院大学は九州の各地から学生が集っていたが、下関からも一定数の学生が来ていたのだろう。
ヒロミちゃんとは、同じ曙荘に住んでいるというだけで、それ以外の接点はなかった。
学年も学部も部活も違う。趣味も好きな音楽も違ったと思う。
僕はバイク(RZ350)で通学していたし、彼女は自転車。玄関を出た所でばったり会って、じゃ一緒に行こうということもない。
たまにチャペルの前あたりですれ違うと「わぁもとさぁ~ん」と大げさに手を降ってくた。
表向きは、おいおい照れくさいよと苦笑いを浮かべていたが、内心は嬉しかった。
時折、学食で部活仲間とだべっているのを見かけ「あ、いるな」と思っても声はかけなかった。僕らは特別な関係ではないからだ。
そんなヒロミちゃんと僕が一度だけ、待ち合わせをしたことがある。
待ち合わせた場所は下関水族館前
海響館ではない。くじらのオブジェが懐かしい下関水族館。あたりには長府遊園地、マリンランドなどが集まる、子供の頃は楽園のような場所だった。
(現在は3施設ともなくなっている)
夏休みで帰省していた彼女を、下関の親戚に遊びに行った僕が誘った。
彼女のために、親戚のおじちゃんが配達で使っているヘルメットを借りてきた。
待ち合わせの場所では、ヒロミちゃんが工事現場でニンジンを振るおじさんのように手を振って待っていた。
じゃこれをと、おじちゃんから借りてきたヘルメットを渡す
配達用のヘルメットは、ラーメン丼ぶりをひっくり返したような形をしている。
現代の基準では合法かも怪しい
何のてらいもなくヘルメットをかぶり、あご紐を締めるヒロミちゃん
夏の太陽と、三大潮流関門海峡の風を受け「どや」とばかりにっこり笑う
僕は吹きそうになった
「なに笑ってるんですか、もとさん。失礼じゃないですか」
だって、・・・
次の言葉はのみこんだ
あまりに決まっていたし、あまりに滑稽だった
でもそれをハタチの女性に言うのは違うかなと想っていた
「一度、このバイク乗りたかったんですよね」
愛車RZ350を褒められて、悪い気はしない。
早く言ってくれればよかったのにと返したけれど、いつでもいいよとは言わなかった
そういうのは余計な気がした
父のクルマに乗り、子供の頃わくわくしながら通った海岸線(国道9号線)
早鞆(はやとも)の瀬戸に沿って折れ曲がり、関門橋が見えたり隠れたりする大好きな道
ヒロミちゃんと最初で最後のタンデムで、僕たちは風になった(なってないけど)
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