三瀬に集った5台の救護ライダー隊 山の麓でミーティング
スズキさんが救急車で運ばれていった。
走路に残っていた割れたヘッドライトやウィンカーの欠片を片付けていると、非力なバイクに乗った福岡県の警察官が到着。現場検証に立ち会い、僕らの任務は終わった。
社会人と想われる750ライダーが提案した。
「落ち着く意味で、どこかでお茶でも飲みませんか」
さすがである。そんな名案は思いつかなかった学生の僕は、それじゃさっき救急車を呼んだ喫茶店が一番近いので、そこにしましょうと応じ、サトウ君と他のライダーも賛同した。
「皆、気が動転していると思うので、ゆっくり行きましょう」
CB750Fに乗ったライダーの言葉は、僕らの胸にすとんと落ちた。
先導は750ライダーにお願いしたいと想っていた。排気量で序列を決めるのが、最も自然と想われたからだ。
それでもなぜか先導は僕のRZ350が務めることになった。
僕が先に一度、喫茶店へ行っているからか、それとも後ろからRZ350の走りを見たかったのか、理由はわからない。
ついさっき、僕がやったような危なっかしい走りではなく、早良区警察署から表彰されそうな安全運転で、5台のバイクは喫茶店の駐輪場に滑り込んだ。
僕らはコーヒーを飲みながら、スズキさんが転倒したコーナーについて話した。
三瀬峠から降りて来ると、そこは最初の右ヘアピンカーブ。網の上で膨らんだ餅のような形をしている。カーブの出口は見えているが、先に行くほどRがきつくなる難所だ。
一定のRで曲がるカーブはライダー・ドライバーにとって心地よいが、こうしたカーブはより慎重になる。
猛然とかっとんで行くRZ250を見ていたサトウ君と僕は、その様子をみて「危ないな」と感じたことを率直に話した。
だが、このカーブで何が起きていたのかは、当事者のスズキさんにしかわからない。
転倒の数分後に通りかかった僕らが第一発見者ということは、誰もその現場を見ていない。
その後、三瀬峠は変貌していく。
アップダウンを伴う曲がりくねった道は、ライダーにとって"攻めごたえ"のある道であると同時に、一般的には危険な道。
乗用車のドライバーからみれば、このテクニカルな道を猛然とかっとんで来るライダーは危険極まりない。
(当時、無謀な走りをするライダーは「暴走族」に括られており、ローリング族という言葉はまだなかった)
この一件の3年後、1986年7月24日には、山の中腹に三瀬トンネルが開通。三瀬峠をショートカットする平坦な道路ができた。
さらに2008年8月12日には、福岡側からみて三瀬トンネルの手前に高低差100mのループ橋が完成して接続した。
さっき親御さんに電話をした時、名前を聞かれて大学名と名前を答えたんです。もしかすると連絡があるかも知れないので、皆さんの連絡先を教えていただけませんか?
割り勘のコーヒー代をテーブルに置いた後、僕はこう切り出した。
それには、750ライダーが応じる。
「大学名と名前だけで連絡を取るのはムリだと想いますよ。大学の学生課にしたって、名字を知っているというだけで自宅を教えたりしませんよ」
当時「守秘義務」「個人情報」という言葉は聞かなかったが、たしかにその通りだと思う。僕もそう考えたから「どちらの?」と聞かれて、大学名を答えたのだ。
「そうですよ。"万が一"連絡があってお礼でも言われたら、motoさんが代表で聞いといてください」
サトウ君が皆の笑いを誘った。
しかし、その"万が一"が眼の前で起きていた。
あれ?飯塚に帰ったんやないと?
インターホンが鳴って、ドアを開けるとそこには夏休みの間、飯塚に帰ると言っていた高野が立っていた。
「そうたい。いや帰っとったちゃけど、今日学生課に学生証明ば取りに行ったとさ。そしたら隣でこの人が "motoさんていう方に子供が救助してもろたけん、お礼ばしたか"て言いよるやん。そばってん、学生課の人は名前だけじゃ、わからないです・・って言うてね。
おいも、借金の取り立てやったら知らんぷりしたばってんさ(笑)
悪いことじゃなかけん、あぁそいつなら隣に住んどーですよ。バイク?あぁ太かとに乗ってます。間違いなかですよっていうことになって。そいで一緒にお連れしたったい」
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