QRコードのもぎりという貴重な経験
その日、僕はチケットもぎり役だった。
チケットもぎりというのは、スポーツや音楽の興行において、入場口で入場券(チケット)を確認する作業をいう。
今から40年前、平和台球場(NPB公式戦)で働いた時は、一塁側内野席のチーフを任されていて、そのメイン業務がチケットもぎりだった。
ただ、もぎりという言葉はあったが、その役割について「君、今日はチケットもぎりね」なんていうことはなかった。
チケットもぎりは、入場運用任務のうちの1つだからだ。
40年前は、すべて紙のチケット。
できるだけ、切り取り線に忠実に切り取ることを心がけた。
逆の立場、つまりお客さんの立場になった時、手元に残るチケットの端っこがささくれて切られていたら残念になる。中には腹を立てる人もいるかも知れない。
40年の時を経て、僕は再びもぎり役になった。
前回は時給500円だったが、今日はスポーツボランティア。
潤沢な予算があるプロスポーツは一握り。
たいていの競技において、運営の担い手はボランティアが頼りだ。
手には、割りと大型のタブレット
僕が使っている iPad(第7世代)より一回り大きく、プロテクターが付いている分、2倍くらい重い。
その興行はいわゆる紙チケットの発券はゼロ。
すべてがQRコードによる電子チケットだ。
入場者はスマホでBチケの画面を提示するか、紙に印刷してきたQRコードを提示する。
開場の時間がきて、一斉にゲートを開く
平和台球場の一塁側と違って、すべての入場者がここを通っていく。
もぎりでこの高揚感、緊張感は経験がない。
既に手指消毒、体温測定、手荷物検査を終えた客がやってくる。
こんにちは!
互いにマスクをしているが、こうした挨拶・お声掛けは規制されていない。
やはり、客商売は声を出さないと気分が出ない。
「こんにちは」と応えてくれるお客さんは10人に1人も居ないけれど、それだけにたまに応えてくれると、とても嬉しい。
同じスポーツ、クラブを愛する人間どうしの共感がここに生まれる。
何人ですか?と声をかける
「2人です」
お客さんがスマホを差し出し、それをタブレットのカメラで読み取る。
QRコードを認識して、アプリが有効なチケットだと認めると「ぴっ」と音がして、画面が切り替わる。
互いの角度、スマホに映り込む照明の具合によって、なかなか「ぴっ」と言ってくれないこともある。
その時は、こちらがタブレットの角度を変えてみる。それでもダメな時は「ちょっと角度を変えていただけますか」とスマホの傾きを変えてもらう。
それでもダメな時は「えいっ」とか言って、念を送る ^^;)
古来から人はこういう物理的には説明できないことを、やってのけている。
映りの悪いテレビを叩いてみたり、Wi-Fiが弱いとスマホを振ってみたり・・
チケットが読み取れると「ありがとうございます」とお礼を言って、空いているほうの手で画面をタップして、次に備える。
親子連れの場合、たいてい大人が家族の分、全員のチケットを持っている。
4人の場合、QRコードは4個。
これが、一部の方には想定外だ。
「まとめて4人分のチケットを買ったのだから、1個のQRコードにまとめられているはず」
ここに来るまで僕もそう思っていた。
だが、全員が同時に来場するとは限らない。
誰か1人が遅れるかも知れない。誰か1人が都合が悪くなり、他の誰かに譲渡するかも知れない。
そういったケースに対応するためには、QRコードは1人1個が合理的だ。
そういえば、紙のチケットだって「1枚で2人分」ということはない。
こんにちは、何人ですか? ありがとうございます。プログラムどうぞ!
できるだけ抽象的な言葉で、流れをつくっていく
ところが、時間が経つに連れて、辛くなってきた
かなり肩が凝っているのがわかる。タブレットを片手で支えているためだ。ピップエレキバンを貼ってくればよかった。
そして、喉が痛い。浅田飴がほしい^^)
読み取ったチケットが800枚を超えた頃には、意識が遠のきそうだった。
それでも、もぎりは楽しい
見ず知らずの人とアイコンタクトして、挨拶をして、にっこり笑う
時にはにっこり笑って返してくれる
もしも、誰かが「おつかれさまです」とでも言ってくれたら、泣きそうだった
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