H3ロケット発射「中止」して「延期」 JAXA岡田PMが見せた真摯な対応
「H3」は、30年ぶりに新規開発された日本の大型ロケット
JAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱重工が開発した「H2A」の後継機。
2023年2月17日、初号機の打ち上げを試みたが、システムが異常を検知したため「中止」そして「延期」された。
■H3ロケットの概要
・用途:衛星の打ち上げ、宇宙への機材搬送
・搬送できる重量:「H2A」のおよそ1.3倍
・開発費:およそ2,000億円
・全長:およそ63m
・打ち上げコストは現行ロケットの半分程度
■時系列の記録
2014年
開発スタート
2020年度
当初の初号機打ち上げ予定を延期
2023年2月17日
先進光学衛星「だいち3号」搭載した「H3ロケット試験機1号機」の打ち上げが種子島宇宙センターで行われたが「中止」「延期」された
■発射当日(2023/2/17)の記録
9:45 JAXAチャンネル(You Tube)で「打上げLIVE中継」始まる
10:37 発射予定時刻
10:42 NHKGがテロップ速報「H3打ち上がらず」
10:45 「メインエンジン着火、SRB3(Solid Rocket Booster3)着火せず。状況確認には時間を要する」として実況放送終了がアナウンスされる
11:00 NHKニュース 全枠を使い解説を交えて伝える
11:10 JAXAの「打上げLIVE中継」終了
14:00 JAXA「H3ロケット試験機1号機に関する記者会見」JAXAチャンネルで配信
■JAXA記者会見 主な内容
岡田H3チームプロジェクトマネージャー(PM)
LE-9エンジンが立ち上がったあと、第一段制御機器で異常が検知されて、SRB3へ点火信号が行かなかった。(涙ながらに)大変申し訳ないし、悔しい。できるだけ早く原因を究明し、できるだけ早く打上げたい
【Q】失敗か中止か?
【A】カウントダウンシーケンスで停まったものについては「中止」と定義している
【Q】年度内(打上げ予備期間として設定している)3月10日までの打上げは可能か?
【A】もちろん、年度内の打上げを目指して頑張りたい。
【Q】どのような異常か?
【A】制御機器がどのような異常を検知したかは、現時点では不明。異常は(LE-9)エンジンではない。断定はできないがSRBの異常でもない。
【Q】機体は移動するか
【A】機体はVAB(大型ロケット組立棟 Vehicle Assembly Building)に一旦戻して検証する
【Q】機体は同じものが、また使えるのか
【A】LE-9エンジンはこういうことを想定して、次に使える設計にしてある
【Q】機体が(準備段階から)種子島に長くいた影響は?
【A】基本的に問題ないと考えている
【Q】飛ぶはずのものが飛ばないのは「失敗」ではないのか?
【A】こういうケースを「失敗」と言ったことはない。我々が非常識なのかもしれないが・・
設計のなかで健全に停まっている、想定している中の話しなので「失敗」とは言っていない
この質問をした共同通信の記者は、質問を終わる際「それは一般に失敗と言います、ありがとうございました」と言い残した。岡田さんは黙っている。
その一言、ジャーナリストとして何を意図したのか。
「世間」「視聴者」の共感が得られると思ったのか。
会社方針を印象づける必要があったのか。
いずれにせよ、それは、表現の場で書けばいいことだ。
生配信の場で、真摯な対応をしている取材相手に浴びせる言葉ではなかった。
失敗だとか、そうじゃないとか、人は時々口にするけど、そういうことに意味があるのか、貴方を見ててそう想う
【Q】今回の不具合は、ロケットを組み立てて、初めてわかることか?
【A】模擬的に負荷をかけることはやってきた。現物で動作させるのは初めての部分はある。
【Q】涙ぐんだので「失敗」という印象を与えたのでは?
【A】このミッションを待ってくださっていた方。楽しみにしているお子さんもいて「ごめんね」という気持ちですね(と涙ぐむ)
【Q】衛星(だいち3号)を一旦(H3から)下ろすか、衛星分離機構(ロケットから衛星を宇宙に送り出す機構)はまた使えるか?
【A】(リトライまでの)期間による。そういうインパクトがないように大至急、原因を究明して、次の打ち上げに備えたい。衛星分離機構を再度使うことはできる
【Q】(テストでは)SRB3に実際に火が入れられないことで、準備が行き届かなかったのでは?
【A】SRB3もLE-9エンジンも(今回の異常検知の)登場人物ではないと想っている
・最後に広報から
原因究明を鋭意進める。具体的情報はありません。適宜お知らせします。
14:00に始まった会見は15:53まで行われた。
原因が究明されていないこの段階において、各社2巡目の質問に「そこが聞きたい」質問は残っていなかった。
それでも、JAXAは報道各社、フリーランスからのすべての質問に答えた。会見が終わったのは、すべての質問が終わった時である。
岡田PMは、記者のど素人質問、(1人1問を超える) ルール無視にも、丁寧に対応。
専門外のことは率直に「わからない」と答え、その真摯さに共感した。
15:00のNHKニュースはトップニュースでこの会見を伝え、岡田さんが涙している映像だけを使った。
静岡県は先進光学衛星「だいち3号」から送られる衛星画像を活用した「盛土」監視事業を2023年から始める予定。
H3ロケットは、将来的には、アメリカの月探査「アルテミス計画」にも活用される予定。
日本が低コストで安定したロケット運用の雄となる未来を待望する。
まずは、3月10日までのリトライ。そして、打ち上げの成功を祈る。
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