奥多摩参考記録【23話】<前半>がスキー競技「スラローム」ならば<後半>は「直滑降」
何度目かの「尻で滑る滑落」を止めた時、僕は右手に太くて長い木を掴んでいた
童話に出てくる魔女が持っている魔法の杖のように、妖艶に曲がりくねっている
トレッキングポールにはちょっと長すぎる(150cmほど)が、滑らないよう「つっかえ棒」になるかも知れない
※トレッキングポール
起伏のある道を歩く際、体の負担を和らげる杖。ストック
地獄に仏を見た
まさか、こんなところに天然のトレッキングポールがあるとは・・・
「これを持って行きなさい」
山の神様からのプレゼントかと想って、その魔法の杖を掴んでぐいっと引いた
だが、改札に引っかけて通れない一昨日買った鞄のように、魔法の杖は自由にならない
さらに力を入れて、引っかかりを外すように左右に振って...
しかし、そこが終の棲家であるかのように、杖はその場を動こうとしなかった
「これは、持って行くな」
山の神様のお告げかも知れない。返って足手まといになるよと
なにかに頼るな、自分の力で往けと
山の神様の言葉をリーディングしているのは僕なので、意見はすぐに変わる
どれくらいの距離を滑落したのだろう
無事、人里の路へ戻るまで、この戦いを続けなければならないことだけが確か
必死だ
「滑落」
滑っている時、僕はその言葉を思い浮かべなかった
この時は「できるだけ安全に滑っている状況」だと捉えていた
何度目の「滑り」かを数えていないが、その何度目かの滑りを止め、一息ついた
その時、湖から金の斧をもった女神が現れるかのように、木々の隙間からエメラルド色の水面が見えた
あれは、湖?
そうだ、奥多摩湖だ
当たり前だろう。さっきまでいたんだから。
皆さんは、そう想うかもしれない。
だが、山に登っている時、人の視線は空を向いていて、眼下の風景は目に入らない。僕のようなど素人はなおさら。
道標の向こう側に映っていた奥多摩湖に、シャッターを押している自分が湖に気づいていなかったように。
「ゴールが見えた」僕はそう考えた
「助かった」というほど大げさなものではない
「助かった」は、今日ここで死ぬかも知れないと観念して、iPhoneに家族へのメッセージを書いた後の台詞だ
ここまで、不本意なまま、予定外の路を滑り落ちてきた僕に、ここで初めて明確な目標ができた
後日談となるが、この時の滑落ルートは ガーミンForeAthlete のログとして記録されていた。
道先案内のGPSとしてではなく、運動の記録として入山時に「スタート」しておいたものだ。
ここまでを滑落<前半>とするならば、進行方向は小刻みに向きを変えていた。
それは、僕が道なき道を迷いながら選んでいる証左だが、ある意味で、このルートが消去法的な意味での"妥当な"滑落ルートなのかも知れない
そして、滑落<後半>が始まる
この道なき道を降りて、あの湖にたどり着きたい
右や左にコースを変えて
歩いたり、滑ったりしながら
明確な目的ができると、僕の心から不安が消えた
不本意に滑っているのと、自ら挑んで滑べるのは、全然違った
先ほどまでの<前半>がスキー競技でいう「スラローム」ならば<後半>は「直滑降」と呼ばれるコースだった
先ほどまでの<前半>と比べると、警戒すべき切り株や、足を引っかけそうな根茎が少なく、落葉が敷き詰められた優しい林床コース
それでも、長い距離を一気に滑るようには開けてはおらず、要所要所で何かに捕まり「次はどこまで滑るか」を検討する
ここまで来ると、安全に降りるというより、滑ることにテーマが置き換わっている
これだけ、長い距離を滑っている僕の尻は今、どうなっているのだろう?
東京2020のField Castに配布されたアンダーパンツ、通称「灰パン」が、今どういう状態にあるのか。
ずたぼろになってはいないか。この後、人前を歩いたり、電車に乗ったりすることはできるのだろうか・・・
少しだけ心にゆとりの雪が積もり始めていた
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