奥多摩参考記録【21話】急な下り坂を滑り落ちる。僕は道に迷っていた
ヤマレコで「登山中止」操作をしたのだが「今来た道を引き返す」やり方がわからない
■スタート地点:現在地
■目的地:小河内ダム展望塔
カーナビやスマホの地図アプリならば、当たり前のようにできることが、ここでは意味を成さない。その理由は、ここが山の中だからだ
山の中には国道も県道も公道も私道もない
東京都あるいは、山の先人たちが設えてくれた道標や目印で導かれる、心細い山道があるだけ
ヤマレコでも現在地→目的地へのルート設定はできる。
ただ、それは現在地→目的地を直線で結んだルートが設定されるだけ。
直線上から一定距離(恐らく100m)離脱すると「ルートを外れました」と警告される。
だが、この道なき山中において、直線を忠実にトレースすることが妥当だとは思えない
試しにその直線を設定してみると、現在地と小河内ダム展望塔を結ぶ直線は、今来たルートよりも左側にずれていた。
そのことも僕を混乱させた。
既に僕は迷っているのか
ずれていた理由は正規のルートが直角に右に折れていたため。
「登山中止」した地点は正常なコース上だったと想われる。
今できることは、今来た道を戻ること
GPSという強い味方を放棄した僕は、自分の目を頼りに一歩を踏み出すことにした
この時「登山中止」をタップせず、今来たルートをなぞり戻っていたら・・
そんなことを考えても、後の祭りだ
むき出しの地面や積み重なった枯れ葉に滑らないよう、姿勢を低くして慎重に歩を進めていく
その間、1分ほど。僕に違和感が襲った
道が見えない・・・
順路として設えられている木の枝や石組みが見当たらない
右を見た、左を見た
どちらも、木漏れ日が差していて、ここで写真を撮ればSNSで多くのイイねがつくかも知れないような穏やかな緑
再び進むべき眼下の獣道に視線を落とした時、右足に鈍い感覚があったかと想うと体の統制を失い、僕はその坂を滑り始めた
おいおい、なんだよ
心も体も動転するなか、僕は落下を止める方法を探す
4~5m滑った所にあった蔓に靴のかかとを引っかけて体を止めた
滑った場所は、落葉がふかふかに敷き詰められていた
痛みは感じていない。感じていないだけかも知れないが。
恐らく、手足、体を支える支点となった尻を切るような傷は負っていないようだ
すべるかね、でも滑るとかおかしくね
今登ってきた路ならば、階段状に設えた足がフックする石や枝があるはず
今、滑った所には、そういう「ひっかかり」はなかったぞ
左右を確認しようとした時、再び足が感覚を失った
今度はさっきよりも早めに体を止めた
どうやれば、体を止められるかという経験値があったから
それでも 3mくらいは落ちた
この奥多摩山行に向けて選んだのは、トレイルランニングシューズ
アウトソールのトレッドパターンは、アプローチシューズのそれと比べて遜色ないと想っていたが、いずれにせよ、この滑りやすい場所で、グリップはしてくれなかった
もちろん、そんなことは考えてはいない
今、考えなくてもいいことは、後で考えるか、そもそも考えなくてもいいことだから
これ以上 滑るとやばい
今度は左手にあった切り株に手を掛けた
これで体の統制は確保した
今、滑っている下り坂が正しい路とは思えない
右を見て、左を見て
順路として設えられている木の枝や石組みを探すが、そこには相変わらず、木漏れ日が差す穏やかな緑の風景が広がっている
道に迷った
僕はその事実を承知した
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