奥多摩参考記録【30話】忙しさを自慢する老人登山家
電車の出発時刻の10分前にはホームに上がり、乗車位置の先頭に立つ
入線してきた奥多摩行き電車が折り返し青梅行きに代わる
行きの電車で共に降り立った人たちは、まだ山の中にいるのか、乗り込む人影はまばら
15:21
青梅線青梅行発車
目映いばかりの緑で統一された車内は、緑あふれる奥多摩をイメージしていて、とても爽やか
本来ならば、心地よい疲労感と、まる1日自然を浴びた爽快感に包まれていたのだろうが、奥多摩プロジェクトを終えた帰りの電車は、飴を噛まずに舐めきったような達成感を得ることはできなかった。
情けない
iPhoneのメモを開き「情けない」と打って、すぐにタタタタタと取り消しボタンで消す
その言葉は適切じゃない。勇気ある撤退ができたことはポジティブだ。滑落したけれど、かすり傷で済んだ。何より、こうして無事に帰りの電車に乗っている
想っていた旅とは違っていたけれど、貴重な1日になると想う
これまで十数回マラソンに出走したけれど、自らやめたことは一度も無い
(1度だけ、関門で止められた)
初登山でいきなりやめることができたのは、2つの理由が考えられる
1つは、山では命に関わる怪我がイメージしやすかったこと
あと1つは、僕自身が負荷に耐える準備をしていなかったことだ
「登山はハイキングの延長」程度に考えていた僕は、奥多摩往きに向けて始めたウォーキングもひと月ほどでやめてしまっていた
ガラガラで奥多摩を出た青梅行きは、行きの電車で降りていった人たちが「御嶽」から乗ってきて満席になった。
最後に乗り込んできた男性3人組の老人は座席をゲットできず、しばらく、泡が跳びそうな声で今後の山行スケジュールについて語り合っていた。
聞いているだけで、過密日程だ。
スポーツボランティアでも、常連どうしが「来週は千葉、その次は横浜、どっちが仕事だかわからないよ」と嘆き合う姿を目にする。
「忙しさ」を自慢する人は、忙しさでしかステータスを保てないのかもしれない。
次の停車駅で僕のとなりの席が空き、老人の1人が座るや否や、音を出してスマホゲームを始めた。一本指打法で一心不乱に画面を食い入るように見て
こういう場合「音を出さないのがエチケットだ」と想う僕のほうが、もう時代遅れのRock'n'Roll Band なのかとも想ったが、いやいや違う
「すみません、音出てますよ」
と言おうか、いや、もし彼らが男性3人組の高校生だったら、同じことが言えるだろうかと考えているうちに、老人はスマホを手にしたまま眠ってしまった
奥多摩の山々を管轄する警視庁青梅警察署山岳救助隊のウェブページによると、令和4年度の山岳遭難発生状況は、遭難件数84件、死者7人、重傷23名。
今回、僕が登頂を諦めたサス沢山(さすざわやま)では2件の遭難が発生。
(いずれも単独行、理由は「道迷い」)
それぞれ、捜索隊7人、10人が出動している。
奥多摩山行の3日後、夕飯を終えて小説を読んでいると、iPhoneのメール通知音が鳴った。
またいつもの「無生物からのメール」か
顧客DBの中から、巧妙にプリファランスを得たフラグが立つユーザーのメールアドレスを抽出して送られて来る機械的なメール。
世の中では「DM」と呼ばれているそれを、僕は「無生物からのメール」と呼んでいる。
1992年にパソコン通信を始めた頃、電子メールはすべて人から送られてくるものだった。
「Windows95」「インターネット」が登場し、メールが広告に使えることがわかると、1997年より無生物からのメールが跋扈し始める。
袋麺とカップ麺、固定電話と移動電話のような「モノ・サービスの逆転」には数年を要するのが常だが、人と無生物のメール比率は1年も経たずに逆転した。
人々が仕事にメールを使うようになったのは、2000年以降のことだ。
その日、届いた「無生物からのメール」には、心当たりがあった
僕は心臓をつかまれるような息苦しさと不安に包まれながら、封を開いた
検証編へつづく
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コメント
6520日続いているブログですね、、、脱帽です。私は一万日を目指していて、今、5576日です。
これから時々拝見します。よろしくお願いいたします。
投稿: 無風凧 | 2023年7月30日 (日) 09時24分
>無風凧さん
初めまして!私も無風凧さんのブログ、ときどき拝見しますね!
投稿: moto | 2023年7月30日 (日) 10時27分